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On the Production
by 井口健二
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■東京国際映画祭2006コンペティションその1
なのか、その辺はちょっと奇異な感じがしたものだ。

『浜辺の女』
ホン・サンス監督による2004年の『男の未来は女だ』に続く
最新作。実は、映画祭の直前に行われたプレス向けの試写会
ではフィルムの到着が遅れて日本語字幕が付くかどうか微妙
な状態だった。一応字幕は間に合ったものだが。
映画監督が、シナリオ・ハンティングのために訪れた海浜の
リゾート地で繰り広げるアヴァンチュール。
そこには以前からの友人のスタッフも同行するが、そのスタ
ッフが連れて来た若い女性や、通り掛かりでインタヴューを
した女性など、次々に関係が結ばれて行く。しかもその行動
範囲が狭いために徐々に女性たちが交錯したり、ややこしく
なって行く。そんな他愛もない話が綴られる。
ホン・サンス監督は、前作でも映画監督を主人公にしていた
が、本作はそれに続く作品だ。ただし今回は前作で監督役の
キム・テウはスタッフの役となっている。
多分本作もシノプシスだけ書いて、台詞は現場で作り上げて
行ったものと思われるが、その場で展開される会話などは極
めて現実的で、その描写は面白く感じられた。
ただしこの種の即興的な作品では、その世界にうまく浸れる
かどうかでどうしても評価が別れてしまう。
その意味では、今回の作品は人物があまり動き回らないだけ
入りやすかった感じもするが、それほど派手な事件が起こる
訳でもないし、見終えて何だと言われれば、この通りとしか
答えられない。でもいろいろ交わされる会話には、かなり含
蓄もあって、僕は面白かったのだが。
なお、前作で過激だったセックス描写はかなり緩和された。

『考試』
中国北西部の黒龍江省第2の都市チチハルからさらに数10km
離れた場所にある扎龍自然保護区の湿原地帯を背景に、その
中にある村の小学校で唯一人の教師として20年間勤めた女性
と、彼女の4人の生徒とを巡る物語。
その小学校で、年に一度の全国一斉のテスト(考試)が行わ
れることになり、先生は徒歩で湿原を抜け、往復8時間を掛
けて町まで試験問題を取りに行く。しかしそのついでに町に
住む娘2人を訪ねた彼女は、娘の1人が火傷を負い、仕事に
就けなくなっていることを知る。
それを知った彼女は、家族を守るために町の学校への転勤を
願い出るのだが、そのためには考試で地域トップの成績を取
ることが求められる。しかしそれは、毎年優秀な成績を収め
ている彼女の学校の生徒たちにはた易いことだったが…
「湿原を徒歩で抜け」と書いたが、それは増水期には船も通
う水路を、船の運行できない渇水期に胸まであるゴム長靴を
穿いて掻き分けて行くと言うもの。そのために湿原の両側に
は着替えのための事務所も用意されている。
ちょっと信じられないような情景だが、実は物語は実話に基
づいており、主人公の先生も4人の生徒も全部本人たちが演
じているという作品だそうだ。従って中国には、今でもこん
な過酷な生活が残っているようだ。
それにしても、このような湿原なら、フロリダのエヴァーグ
レイズにあるようなプロペラ船を使えば、いつでも簡単に行
き来できそうなものだが、鳥類の棲む自然保護区では使用が
禁じられているのだろうか。

『グラフィティー』
モスクワの美術学生が、ふとした切っ掛けで田舎の村を訪れ
る。そこで村の幹部の肖像を入れた風景壁画を頼まれた主人
公は、気軽にそれを引き受けるのだが、描き始めるとそこに
肖像を入れてくれるように写真を持ってくる村人が現れる。
それに対して主人公は、卒業製作の期限が迫っているなど、
時間を気にするが、村人たちはお構いなしに次々に写真を持
って来始める。そして主人公は、それが村人たちにとっては
重大な意味を持つものであることに気付かされる。
その写真に写されているのは、その村で起きた戦闘や、チェ
チェン紛争、さらには遠くアフガニスタンなどで戦死した村
出身の若者たちの姿だったのだ。
映画では巻頭に主人公が町で落書きをしているところを咎め

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11月05日(日)
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