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On the Production
by 井口健二
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■トンマッコル、サッド・ムービー、遙かなる時空〜、靴に恋する〜、地下鉄に乗って、地獄の変異、サイレントノイズ、ユアマイサンシャイン
物語自体は他愛ないものではあるが、随所に絵本や童話のイ
メージが盛り込まれたり、特に、若い女性には魅力的な作品
になっていると思える。相手役は、『僕の恋、彼の秘密』や
『セブン・ソード』などのダンカン・チョウ。
なお主演のスーは、日本でのバラエティアイドルだった頃の
イメージとはかなり違って、主人公を透明感のある雰囲気で
見事に演じている。そこに、コミカルなシーンが無理なく挿
入されているのも素晴らしいところだ。
またスーは、台湾では作詞家としても活躍しているそうで、
本作では挿入歌とエンディングの歌を自らの作詞と唄によっ
て提供している。
FFCではこの後にも、マレーシア、シンガポール、香港、
中国などの新人監督を起用した作品を製作しており、これら
の作品も順次公開されることになりそうだ。

『地下鉄(メトロ)に乗って』
『鉄道員(ぽっぽや)』などの浅田次郎の原点とも言われ、
1995年吉川英治文学新人賞を受賞した原作の映画化。
始まりは現代。銀座線赤坂見附駅から半蔵門線永田町駅に続
く長い地下道を、重いキャリングケースを引きながら歩く中
年の男。しかし、ようやく辿り着いた半蔵門駅で地下鉄は不
通になっており、男は止むなく道を戻り始めるが…
ふと見掛けたセーター姿の若者に、若くして亡くなった兄の
面影を見た主人公は、思わず後を追い掛ける。そして見知ら
ぬ出口階段を昇ると、そこには、昭和39年、兄が死んだ日の
新中野の商店街が広がっていた。
こうして、時代をタイムスリップした主人公は、兄の死を阻
止するべく奔走し、そして横暴だった父の真の姿と、その時
代を見ることになるが…主人公はこの後も、現代と、昭和39
年と、太平洋戦争の末期や終戦後の混乱期などの時代を行き
来しながら、物語は綴られて行く。
タイムスリップの原因などは説明されないが、主人公が即座
にそれに順応してくれるのはSFファンとしてほっとすると
ころだ。さすが現代の人気作家の原作だけのことはある。本
作の本質はSFではないが、ちゃんとそれを踏まえての作品
というところだ。
それに、相談相手の男性が『罪と罰』を読んでいるのには、
思わずニヤリとした。この『罪と罰』は多分原作にもあるの
だろうし、物語的にちゃんと意味も持つものだが、同時期に
公開されるハリウッド製の似たテーマの作品のことを考える
とタイミングが良すぎる感じのものだ。
それはさて置き、映画はこれらの各時代を表現するため、今
はない映画館を含む新中野の商店街や、戦後の闇市などを見
事に再現して行く。特に、闇市の雑踏の再現は見事だし、ま
た、本作では東京メトロの全面協力を得て、駅中でのロケー
ションや古い銀座線車両の内装なども撮影されていた。
ただし、僕は東京にいて地下鉄もよく利用するし、赤坂見附
駅と永田町駅の間の地下道も何度も往復しているからこの物
語には入りやすかったが、そうでないとするとどうなのだろ
うか。その辺はちょっと心配になったところだ。
ある意味、地下鉄の路線の複雑さがテーマになった作品でも
ある訳だが、その複雑さが東京にいない人にどのように伝わ
るかも気になる。SFファンとしては、その路線の複雑さが
時空のゆがみを引き起こしたとも言いたくなるのだが…
それから物語の始まりを現代としてしまったのは、ちょっと
主人公たちの年齢設定に無理が生じるように感じた。実際、
演じている堤真一は1964年生まれと言うことだから、年齢的
には15年ほどずれることになる訳で、原作が発表された年な
らまだ良かったのだが…
それと、劇中に登場する青山一丁目駅のシーンは、ここは本
来土手式ホームだから、渋谷行きは車両の進む方向が逆のよ
うにも感じたのだが、見間違いだろうか?
と、いろいろ文句は言いつつも、SFファンで地下鉄好きの
僕にとっては本当に嬉しくなる作品だった。
なお、本作は編集を『殺人の追憶』などのキム・ソンミンが
行っており、日本人とはちょっと違う切れも感じられた。日
韓映画人の交流の賜物というのも嬉しい作品だ。


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08月20日(日)
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