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On the Production
by 井口健二
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■刺青、かもめ食堂、B型の彼氏、ルート225、トム・ダウド
と思う。
以下ネタばれがあります。
ところが映画というのは、小説以上に現実的であるところが
問題で、多分小説ではさらりと描かれているであろう姉弟の
帰還路を探す頑張りが、観客にはその望みを叶えてあげたい
という思いを起こさせてしまう。しかし…というところが微
妙に感じられるものだ。
確かに望みが絶たれると判るシーンの描写は、多部と弟役の
岩田力の好演もあって見事だし、この後に解決策が出てきて
はお話が台無しになってしまうから、この結末は了解するべ
きものであることは間違いないのだが…
この映画は、少なくとも僕の中ではSF映画と呼ぶことはで
きないものだ。

『トム・ダウド/いとしのレイラをミックスした男』
         “Tom Dowd & The Language of Music”
1949年のアトランティックレコードを皮切りに、レコード音
楽の録音技術に幾多の革新をもたらし、バイノーラル(ステ
レオ)録音から、マルチトラックのミキシングコンソールの
デザインなども行った録音技術者トム・ダウドの生涯を追っ
たドキュメンタリー作品。
なお撮影はダウドの生前に行われたものだが、作品は2002年
の彼に死後に完成された。
言ってみれば、偉大な功績を残した男の栄光の足跡を辿った
もので、作品自体には文句の付けようもない。特に音楽関係
者のはずの彼がマンハッタン計画にも関わり、ビキニ環礁の
水爆実験にも加わっていたという話は、どうでも良いけど凄
いという感じのものだ。
また、いろいろなテクニックを披露したり、その他ミュージ
シャンたちが彼の偉大さを証言するのも、おそらく音楽関係
者が見たら恐れ入ってしまうものなのだろう。しかもそれを
部外者である僕らが見ても理解できるように描いているのだ
から見事なものだ。
同様のインタヴュー中心のドキュメンタリー作品では、一昨
年11月に日本映画の照明技術者についての作品を紹介してい
るが、日本の作品が今一つ乗り切れなかったのは、やはり対
象人物の人間性の描き方が希薄だったせいもありそうだ。
その点でこの作品は、出身大学を訪ねたり、手掛けた歌手に
直接会わせるなどの演出で、人間性を前面に描き出す。この
辺もテクニックかなと感じたものだ。この種の技術絡みのド
キュメンタリーは今後も作られるだろうが、良い手本を見る
感じの作品だった。

01月14日(土)
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