ID:47635
On the Production
by 井口健二
[460100hit]
■シャークボーイ&マグマガール3-D、春が来れば、あぶない奴ら、タブロイド、美しき運命の傷痕、リトル・ランナー、PROMISE
彼らはエクアドルで発生中の子供ばかりを狙った連続誘拐殺
人事件の取材に来たのだったが、その被害者の葬儀の取材中
にインタビューを試みた被害者の双子の弟がトラックに引か
れる事件が起こる。
そして被害者の父親が怒り狂って加害者の運転手に灯油を掛
け、火を付けようとした瞬間に、主人公がその場を制して運
転手を救出、その模様が全て撮影され、番組で放送されたこ
とから人々の間で彼自身が英雄になってしまう。
ところが、一応逮捕された運転手に同じく逮捕された父親は
執拗に復讐を試み、その様子を取材に行った主人公に、運転
手は釈放に協力してくれたら連続殺人犯の情報を教えると言
い出す。そして、彼が漏らした情報から新たな遺体が発見さ
れてしまうのだが…
以下ネタばれがあります。
実は映画では最初に犯人を示唆する重要な描写があり、主人
公が犯人に踊らされている図式が明確に描かれている。従っ
て観客には、主人公のスクープを狙うあまりの行き過ぎた行
動や、その顛末が見事に見えてくる仕組みの作品だ。
最近、日本で起きている幼女誘拐殺人事件でも、被害者の友
達の子供への取材など、報道の行き過ぎとも言える取材が目
立っているが、そんな報道関係者が一歩間違えれば陥ってし
まうかもしれない奈落の底を見事に描いている。
なお、本作は2002年のサンダンス/NHK映像作家賞の脚本
部門を受賞した作品で、こういう作品の成立に報道機関が関
わっているというのもおかしな話だが、完成された映画は、
カンヌやトロント、サンセバスチャンの映画祭に出品され、
グアダラハラ映画祭では作品賞の受賞も果たしているという
ことだ。
また、テレビ映像の中だけだが、番組のホスト役でアルフレ
ッド・モリーナがあくの強い演技を披露している。
『美しき運命の傷痕』“L'Enfer”
1996年に亡くなった『トリコロール』などのクシシュトフ・
キェシロフスキが、ダンテの『神曲』に想を得て進めていた
3部作の内『地獄篇』の遺稿脚本を、『ノー・マンズ・ラン
ド』のダニス・タノヴィチ監督が映画化した2005年作品。
因に、『天国篇』は『ヘヴン』の題名で2002年12月頃に紹介
しているが、物語上のつながりなどはないようだ。
3人姉妹の物語。父親は22年前にある出来事で亡くなってお
り、老いた母親も施設に預けられている。3人は独立して暮
らしているが、長女は夫の不倫に悩んでおり、三女は逆に妻
子ある男性を恋している。そして次女の許に1人の男性が現
れる。その次女は悲劇の始まりの目撃者でもある。
原題は「地獄」の意味で、英語題名も“Hell”となっている
ようだが、3人姉妹それぞれが味わされている過去、現在、
未来の地獄が描かれる。しかも自分自身は正しいと思ってし
たことか、あるいは止められなくなってしたことの結果とし
て生み出された地獄。3人の姉妹と母親は、そんな地獄の中
に生き続けている。
物語自体はトリッキーなものではないし、監督の前作や、題
材から多少構えて見始めた僕には、むしろ判りやすい物語の
ようにも感じられた。
監督の前作『ノー・マンズ・ランド』は、喜劇とも取れる戦
場での出来事が、やがて途轍もない地獄の入り口であること
が判る物語だったが、本作の地獄も、最初はちょっとした出
来事だったのかも知れない。
しかし、そこで明かされるべき真実が明かされないまま進む
ことで、悲劇が悲劇を生み出し、やがてそれは人々を地獄へ
と陥れてしまう。そんなドミノ倒しのような物語が展開され
る。しかもそれが、正しいと思ってしたことが原因であるが
故に、よけいに大きな地獄になってしまうのだ。
[5]続きを読む
12月13日(火)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る