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On the Production
by 井口健二
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■東京国際映画祭2005(コンペティション)
だから評価が甘いのかも知れないが、僕としてはこの作品が
今年のグランプリだったと思っているものだ。
僕の両親の時代の日本も、多分この映画のように貧しかった
が、それでも人々は夢を追って活気に溢れていた時代だった
のだろうと思う。そんな時代を見事に歌い挙げた作品で、特
に結末のシーンでは、久しぶりにスクリーンの前で落涙させ
られてしまったものだ。
また映画の自体も、シーンを描き切らずにその直前で止める
手法だが、それでいて独り善がりになっていない構成の巧み
さや、2人のドジョウを演じた男優女優の駆け引きの演技の
うまさにも心を奪われた。なお、撮影は実際の紫禁城修復工
事の現場でも行われているということだ。

『落第』
チリでMTVのナヴィゲーターなども務める22歳の新人監督
ニコラス・ロペスの作品。僕は参加しなかったが、一般上映
後のQ&Aでは、『スターシップ・トゥルーパーズ』のバッ
ヂや『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のネクタイを付
けて登場するなど、オタクぶりを発揮していたそうだ。
厳しい現実からの逃避のためだけにコミックスを読みふける
若者が、転校してきた美女の同級生を巡って一躍奮闘を始め
る。そこに彼自身の夢やいろいろな思いが渾然一体となって
シュールでスラップスティックな世界が展開する。
三池崇史や宮崎駿、大友克洋、鳥山明が好きという日本びい
きの監督だそうで、そんな監督が日本に招待されただけでも
大変ということになるが、映画の出来は正直に言って大した
ことはない。勿論、僕みたいな人間は彼の言いたかったこと
は理解するし、そういう評価はできるのだが、いくらなんで
も映画としての完成度は低いものだった。

『恋愛の目的』
2002年の韓国製SF映画『ナチュラル・シティ』で助監督を
務めたハン・ジェリムの作品。03年に本作の脚本が受賞し、
今年その映画化で監督デビューしたということだ。
遊びのセックスの方が本当の恋より良いとうそぶく高校教師
と、彼の助手となったちょっと訳ありの教育実習生の恋の駆
け引きを描いた作品。
韓国という国は、不倫に関して厳しい罰則があったり、儒教
国として性に関しては厳格な社会だと思っていたが、数年前
に映画祭で見た『オー!スジョン』以来、そのイメージはが
らがらと崩れてしまった。この作品もそんな最近の韓国の風
俗を描いたもののようだが、正直に言って映画の前半は話の
展開もいい加減だし、ちょっといらいらしたものだ。
しかし結末に至って何と言うか、ちょっと不思議な感覚にも
されたもので、その意味では映画の全体として納得はできた
のだが、やはり前半の展開は途中で見る気を失せさせる感じ
もしたものだ。それが狙いなのかも知れないが、だとしたら
ちょっとやり過ぎというところだろう。映画はもう少し観客
のことも考えて作ってほしいものだ。

『サングレ』
2002年にロサンゼルス市立大学映画科卒というアマ・エスカ
ランテ監督作品。テレビを見るのとセックスをするのが日々
の生活という男女の姿を描いた作品。監督は、ドラマを描く
のではなく、ただ人々を観察するだけで面白い、という感覚
で撮った作品ということだが…
主人公は前妻と別れ、別の女と同棲しているが、その生活ぶ
りは、仕事の後はテレビを見るかセックスをするかという何
とも非生産的なもの。そこに、前妻との間に生まれた娘から
助けを求める電話が掛かってくる。しかし嫉妬深い同棲者と
の間のトラブルを嫌う主人公は、娘をひとまずホテルに住ま
わせることにするが…
はっきり言って、上記の監督のコメント通りなら、そんなも
のは映画でもなんでもなくて、素人にヴィデオカメラでも与
えればできてしまうものだろう。それを敢えて映画にするの
だから、それなりの何かがあると期待したが、何も得られな
い作品だった。特に後半が突然不条理劇になってしまうのだ
が、僕には理解できない宗教的な暗示でもあるのかどうか、
そうでないなら全く無意味な作品としか言いようがない。

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11月07日(月)
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