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On the Production
by 井口健二
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■ランド・オブ・プレンティ、ARAHAN、大停電の夜に、アクメッド王子の冒険、モンドヴィーノ、親切なクムジャさん
督(脚本家)の自信に満ちた回答ぶりは、この作品に大きな
期待を抱かせるものだった。
しかし一方で、『24』のような脚本が、大した事件も起こ
らない設定で描き切れるのかということには、多少の不安も
感じたものだ。そしてその作品が、ちょうど8カ月を経て完
成され、僕らの前に披露された。
見終っての感想は、まず脚本の見事な構成に感心した。登場
人物は男女6人ずつ計12人。この12人の物語が時間を追って
語られるのだが、実は独立しているように見える物語が微妙
に絡み合って、その物語がある時点から一点に向かって収斂
して行く。
そこには移動する人物と、待っている人物がいて、それらの
人物たちの間を、時間と空間が心地よく流れて行く。その構
成が実にうまい。なるほどこれだけの脚本には、そう滅多に
はお目に掛かれないし、これなら自信が持てただろうという
感じがしたものだ。
そして、これを演じるのが、淡島千景、原田知世、寺島しの
ぶ、井川遙、田畑智子、香椎由宇の女優陣と、宇津井健、田
口トモロヲ、吉川晃司、阿部力、豊川悦司、本郷奏多の男優
陣。
実は、この演技陣が、結構女優の方が個性を強く描かれてい
て、男優陣が引き気味に感じられる。これは、多分監督の狙
いでもあるのだろうが、特に物語の中心にいるはずの田口の
キャラクターが薄く描かれているお陰で、女性の物語が際立
っている感じがした。
また、この映画のためにフランスから帰国したセザール賞受
賞カメラマン永田鉄男の撮影が実に美しく。中でも田畑と豊
川のエピソードで描かれる裏町が、ちょうどハリー・ポッタ
ーのダイアゴン・アレーを思わせる素敵な雰囲気に描かれて
気に入ったものだ。
物語は先にも書いたように、大停電を除けば大きな出来事は
起こらない。しかし普通の生活が、停電という事件によって
少しずつ変化して、本当なら起こらなかったはずのことが起
こってしまう。そんなささやかな出来事の積み重ねが素敵に
描かれている。
なお、上記の説明では、物語は一点に収斂して行くと書いた
が、物語はその後でちょっとだけ拡がって行く。そんな描き
方も素晴らしく感じられた。
クリスマスの前に、本当に素敵なプレゼントをもらったとい
う感じの作品だった。
『アクメッド王子の冒険』
“Die Acenteuer des Prinzen Achmed”
1926年に完成された世界最初期の長編(65分)アニメーショ
ン作品。
切り絵を少しずつ動かしながら一駒ずつ撮影して制作された
もので、今回の公開では「影絵アニメーション」と題されて
いるが、いわゆる影絵で上演されたものを撮影しているもの
ではない。
物語はアラビアンナイトに材を取ったもので、カリフの息子
=王子が魔法使いに騙されて遠い世界に飛ばされる。そして
魔獣の島で女王を助けたり、中国の魔女に助けられたりの大
冒険を繰り広げ、最後は実の妹を魔法使いの魔手から救出す
るというお話。
これを細かな切り絵と、その他さまざまなテクニックを使っ
て描き上げている。
なお、一部に登場する砂絵やロウを使った映像には協力者が
いたようだが、主体の切り絵のアニメーションは、クレイア
ニメーションや人形アニメーションと同様、個人作業で作ら
れるもので、ほぼ全編をこれで作り上げた労力は大変なもの
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08月31日(水)
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