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On the Production
by 井口健二
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■私の頭の中の消しゴム、シン・シティ、愛を綴る詩、そしてひと粒のひかり、エコーズ、チャーリーとチョコレート工場
元々が詩人でもあるポッターにとって、台詞に詞の形式を採
ることは自然の流れでもあったようだが、残念ながら字幕で
それは判らないものの、何となくリズムの感じられる映画に
はなっているようだった。
実は、ポッターの作品は、『オルランド』『タンゴ・レッス
ン』と順番に見ているが、この2作はあまりピンとは来なか
った。しかし前作『耳に残るは…』では、かなり大掛かりな
作品を見事にまとめ挙げて注目したものだ。
そして本作は、前作ほどの大仕掛けではないが、ベルファス
ト、ベイルート、そして最後はハバナなどにも現地ロケを敢
行して、恋愛劇を見事にまとめている。
それと、これが目的でもあろうが、詞の形式で書かれた台詞
の饒舌なこと。2人の口論のシーンが最初に書かれたという
ことだが、主に言い争いに終始するいろいろな場面での台詞
の多さが見事に物語を作り上げて行く。
一方で、狂言回しのように登場する清掃婦の人を食ったよう
な解説も、見事に映画を作り上げていた。
時節がら、映画の中で爆弾テロなどの話が出るとはっとする
が、物語はそれと直接関わるものではない。しかしその陰の
中で生きなければならない男女の物語だ。
『そして、ひと粒のひかり』“Maria Full of Grace”
アメリカのケーブル向けの番組製作会社HBOの資金提供で
製作されたアメリカ=コロンビア合作映画。
昨年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞して全米公開された
作品。主演のカタリーナ・サンディノ・モレノは今年のアカ
デミー賞主演女優賞に、コロンビア出身の俳優としては初め
てノミネートされた。
主人公のマリアは17歳。コロンビアの花卉農園で働いていた
が、監督主任との折り合いが悪く仕事を止めてしまう。しか
し家には働きの無い姉などがいて、一家の家計は彼女の肩に
掛かっている。しかも愛してもいない男の子供を身籠もって
しまう。
そんな人生を逃げ出そうと彼女は首都に働き口を求めるが、
働き口は簡単に見つかるものではない。しかし首都に送って
くれたバイク乗りの男から簡単に金の稼げる運び屋の仕事を
紹介される。それは麻薬をつめたゴムの粒を胃袋に納め渡米
するというものだった。
そして67粒の麻薬とひと粒の命をお腹に抱いて、彼女はアメ
リカへと向かう飛行機に乗り込むが…
原題の副題には、Based on 1000 true storiesと書かれてい
る。物語は、ジョシュア・マーストン監督の脚本によるもの
だが、彼は偶然に取材した運び屋で逮捕されたコロンビア人
女性の話からこの物語を思いつき、綿密な調査の上、脚本を
書き上げたということだ。
実際、映画の中に登場するアメリカ側で彼女たちの更生を支
援する男性も、実在している人物ということで、彼は今まで
に400体以上の途中で死んだ、若しくは殺された女性たち遺
体をコロンビアに送り返したという。
つまりこの物語は、すべて実話に基づき、このようなことが
今も現実に行われているということなのだ。しかもその映画
がコロンビアで作られたということにも驚かされる。最早こ
の実態は、隠しようもない事実ということなのだろう。
ただし、映画はフィクションとして結末もちゃんと設けられ
ており、その部分では救われる感じもする。その一方で、ド
キュメンタリー調の演出も見事な作品だった。また、モレノ
の容姿と演技力にはこれからの活躍も期待させた。
『エコーズ』“Stir of Echoes”
リチャード・マシスンの1958年作で、早川SFシリーズにも
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07月30日(土)
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