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On the Production
by 井口健二
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■火火、隣人13号、火星人メルカーノ、エレニの旅、タッチ・オブ・スパイス、ビヨンドtheシー
でも愛し合う2人は家を出、少年の弾くアコーディオンの腕
で生活を続けるが…
この2人と双子の子供たちが、第2次大戦や、後の内戦など
に翻弄される姿が描かれる。
主人公の名前が国の愛称であることからも判るように、この
作品はギリシャの国そのものの姿も描いている。そこでは、
ソ連の脅威によって内戦を引き起こされ、やがて敵味方に分
かれて闘わなくてはならない国民の悲劇や、国を去って行く
人々の苦悩が描かれる。
なお、アンゲロプロスは、この撮影のための大きな難民村を
含む2つの集落を建設。そこには蒸気機関車の往来する鉄道
も敷かれて、その村を背景に雄大な物語を描き上げる。実際
その村が見事に水没するなど、そのスケールはものすごいも
のだ。
物語はまだ中途で、この先どれだけの悲劇が到来するのか。
それを見届けなければならないと思わせる第1部だった。
『タッチ・オブ・スパイス』“Politiki kouzina”
1960年代のトルコ・イスタンブールを舞台に、キプロスを巡
って深まるトルコとギリシャの国家間の対立により、強制帰
国を余儀なくされたギリシャ国籍の父を持つ一家の姿を、そ
の一人息子の目を通して描いた物語。
同じ日に見た『エレニの旅』と同様のギリシャの歴史を描い
た作品だが、本作は第2次大戦後の比較的記憶に新しい時代
の物語だ。とは言うものの、自分の記憶を辿ってキプロス紛
争という名称は憶えているが、その陰でこのような悲劇があ
ったことは記憶になかった。結局、極東の外れにいる国民と
しては、国際情勢への疎さを思い知るところだ。
ただし映画は、全体としては悲劇だが、物語はその中で成長
した少年が、トルコ人の母方の祖父の営むスパイス店で見聞
きした事柄を中心に、トルコ料理への蘊蓄なども絡めて、心
地よく描かれている。
実際に、映画は国際情勢に翻弄されるギリシャ人を描いては
いるが、その一方でトルコ料理に対する愛情が描かれ、国家
と国民の思いの違いなどもうまく描かれている感じだ。
しかし、ギリシャに帰国した人々がトルコ人と呼ばれ続ける
などのエピソードは、やはり悲劇を描いた作品と言っていい
のだろう。
なお、原語のせりふは言葉遊びのような言い換えが頻出し、
字幕がルビだらけになってしまっているが、これは仕方がな
い。ただ、字幕ではギリシャとなっているせりふのいくつか
が、原語ではエレニとなっていたようだった。
『ビヨンドtheシー』“Beyond the Sea”
1950年代後半から60年代に活躍した歌手、俳優ボビー・ダー
リンの生涯を、俳優のケヴィン・スペイシーが自らの脚本、
監督、主演で映画化した作品。
ボビー・ダーリンの名前は、ヒット曲Mack the Knifeの歌声
と共に記憶しているが、映画の題名はシャンソン『ラ・メー
ル』をカヴァーした彼のもう一つのヒット曲の題名によって
いる。
ボビー・ダーリン、本名ウォルデン・ロバート・カソットは
1936年ブロンクス生まれ、母親と姉、そして姉の連れ合いの
一家の中で成長するが、子供の頃に重度のリュウマチ熱を患
い、15歳までの命と告げられる。
しかし家族の献身的な看病のもと、励ますために持ち込まれ
た楽器や、母親の指導によってエンターテイナーの才能を発
揮、歌手の道を目指すことになる。そして芸名ボビー・ダー
リンとしてグラミー賞新人賞などを受賞。
やがてハリウッドに進出したダーリンは、共演した当時16歳
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12月31日(金)
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