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On the Production
by 井口健二
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■第17回東京国際映画祭(コンペティション)
カンヌも審査委員長の趣味で選ばれたようだが、国際映画祭
のグランプリがそんなことでいいのかという疑問は残る。
なお、本作はNHKが製作した作品だったようだ。
『ライス・ラプソディー』
シンガポールの中華街が舞台のホームコメディ。
主人公は、女手一つで3人の息子を育て上げ、しかも屋台か
ら始めたという「海南鷄飯」の店を成功させた立志伝中の女
性。ところが、彼女の3人の息子の上2人はゲイをカミング
アウトしており、末っ子の様子もおかしい。
そこで一計を案じた彼女は、近所の料理店の主人と図って、
フランスからの女子留学生をホームステイさせ、末息子の気
を彼女に向かせようとしたのだが…。
こういうシチュエーションは、最近の中国語圏の映画で多く
なっているような気がする。まあ、日本のテレビでもカマが
売りの芸人が幅を利かせているから状況は変らないのかも知
れないが、もはやゲイが文化として定着してしまっているよ
うだ。
そういう状況の話は別として、物語は古風な意識に固まった
母親と、新しい文化に染まった息子たちの確執という描き方
で、それなりに巧く作られている。この辺の巧さを見ると、
ゲイに対する考え方では日本より進んでいるようだ。
ただ、フランス人女子留学生の置かれている状況が今一つ不
明確でもどかしいが、これは物語の触媒として作用する部分
なので、かえって不明瞭で良いということなのだろう。
なお「海南鷄飯」とは、蒸し鶏の料理のようだったが、海南
島からの移民たちが作り上げた家庭料理なのだそうで、元々
の海南島にはなかったものだそうだ。
『時の流れの中で』
台湾の故宮博物館を舞台に、そこに働く男女と、そこに所蔵
されている書を訪ねて日本からやって来た若者を巡る物語。
その書は、左遷された武人が書いたもので、それが書かれた
ときの武人の心境などが、研究の成果として克明に説明され
て行く。また、その書自体も数奇な運命を辿ったものとして
説明されるが、それ自体が現代の物語とどう関わるのか。
確かに、日本人青年の思いなどはそれによって明らかになる
のだが、肝腎の主人公であるはずの台湾側の男女の話とのつ
ながりが見えてこず、結局はただのエピソードでしかないも
のになってしまっている。それなら何でこんなに丁寧に描い
たのかという感じだ。
結局、主人公の男女の話は最後までごたごたしたままで、何
が言いたいのかさっぱり理解できなかった。
最初に故宮博物館製作の映画とクレジットされるので、もっ
と所蔵品なども丁寧に紹介されるかと期待もしたが、そうい
うこともなく。中では所蔵品をいろいろな災害から守り通し
たという老人の話がアニメーションを交えて紹介されるが、
それも本編とどうつながるのか良く判らないままだった。
何かの意図を持って製作されたと思う作品だが、その意図が
全くこちらに伝わってこないというか、描く上でその辺の説
明の何かが欠落しているように感じられた。
『ミラージュ』
混乱の続くマケドニアの一般社会を背景に、学力は優秀なの
に将来の道を閉ざされた少年の日常を描いた物語。
自由経済社会になったとはいえ、いくら働いても向上しない
生活。そしていまだにセルビア人が幅を利かせる警察組織。
そんな歪んだ社会の中で、少年は押しつぶされ、先の見えな
い日々を送り続ける。
そして少年には、教師から優秀者はパリに招待されるという
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11月05日(金)
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