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On the Production
by 井口健二
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■スパイダーマン2、トゥー・ブラザーズ、フォッグ・オブ・ウォー、恋の門
上映後に監督とのティーチイン付きの試写会が行われた。
羽生生純原作のコミックスの映画化。石のオブジェで漫画芸
術家を自称する男=門と、コミケに自作漫画を出店するコス
プレ・オタク系の女=恋乃、そして、元は売れっ子漫画家だ
ったが筆を折って漫画バーを営む男。その3人が思い切り恋
愛ドラマを展開する。
主人公の門を演じるのは松田龍平。この俳優は、大島渚監督
が抜擢したデビュウ作からいろいろ見てきたが、今回初めて
様になる演技を見た気がする。今までは、監督も指摘してい
たが、活舌も良くないし、いつも不貞腐れたような感じで良
い印象はなかった。
しかし本作では見事に化けた感じだ。監督は彼の立ち姿が原
作の主人公に似ていたから選んだということだったが、それ
以上に、今までの作品からは見違えるような、声にも張りが
あって、まるで主人公が乗り移ったような演技だった。
一方、相手役の恋乃は酒井若菜。彼女も『無問題2』や『木
更津キャッツアイ』などではただのアイドルという感じだっ
たが、普通のOLからいきなりコスプレをしたり、はたまた
漫画を書いたりという変身ぶりが見事に様になっていた。
そして元売れっ子漫画家は松尾監督が演じるが、本人も一時
は漫画家志望だったと言うだけあって、その漫画家ぶりは大
げさに戯画化していながらも、いかにもありそうな雰囲気で
見事だった。
ティーチインの中で監督は時間が足りなかったと言っていた
が、以前別の舞台人の初監督作品の舞台挨拶で、その監督は
「舞台は公演が始まっても手直しが利くが、映画は撮ってO
Kしたらそれで決まりというのが難しかった」と言っていた
のと同じ意味だろう。
舞台人にとっては、それはかなり苦しいもののようだが、本
作は、松尾自身が書いた脚本が良いこともあるのだろうが、
見事に完成された作品になっていたと思われる。特に、アニ
メやミュージカルの挿入シーンも、バランスが良く見事だっ
た。
そして、このアニメを庵野秀明が手掛けていたり、ミュージ
カルシーンでは忌野清志郎が歌って踊ったり、コミケがフィ
ーチャーされていたり、大竹しのぶがメーテルのコスプレを
したりと、映画を盛り上げる仕込も無駄無く決まっていた。
原作は後半かなりヘヴィになるそうで、それをライトに映画
化したことを不満とする声も聞かれたが、僕は原作と映画は
違っていいと思うし、ライトに見えても、根底のヘヴィさが
感じられるこの映画化は上出来どころか、今年のベスト10に
選んでも良いと思った。
公開は秋以降になるようだが、久し振りに人に勧められる日
本映画だった。
06月30日(水)
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