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On the Production
by 井口健二
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■イブラヒムおじさんとコーランの花たち、トロイ、ヒロイック・デュオ、トスカーナの休日、カーサ・エスペランサ
マギー・ギレンホール、ダリル・ハナ、マーシャ・ゲイ・ハ
ーデン、スーザン・リンチ、メアリ・スティーンバーゲン、
リリ・テイラーと、リタ・モレノ、ヴァネッサ・マルチネス
の共演、ジョン・セイルズ監督による社会派ドラマ。
舞台は南米の架空の国、国力は貧しく、町にはストリートキ
ッズが溢れている。その国の唯一の輸出品は、映画の中でも
現地の登場人物が自嘲気味に言うように赤ん坊。つまりアメ
リカ人が現地の赤ん坊との養子縁組のためにやってきて外貨
を落として行くのだ。
そして上記の初めの6人は、その養子縁組のために当地を訪
れているが、その手続きには時間が掛かり長い人は2カ月に
も及ぼうとしている。そして滞在の資金が底を尽きかけた人
は、食費を削ってまで希望を繋ごうとしている。
この手続きの長さには裏の事情も垣間見せるが、実際、セイ
ルズが映画のヒントを得たというベトナム戦争孤児との養子
縁組を描いたドキュメンタリーでも、1カ月以上待たされて
いるという話が出てきたそうで、その手続きの長さは現実の
ようだ。
ただし映画は、彼女たちの物語だけでなく、中年になっても
革命を夢見ている現地の男たちや、ストリートキッズの実態
なども描き、どこに焦点を絞れば良いのか迷うような展開に
なっている。それくらいに問題の根は深いところにあると言
いたいかのようだ。
しかし映画の中では、彼女たちの一人と現地人のメイドが、
母親になりたいと願う気持ちと、子供を手放した母親の気持
ちを、互いに理解できない英語とスペイン語で話すシーンが
見事に描かれており、監督の気持ちがここにあるようにも感
じた。
それにしても、オスカー受賞者3人を含む女優たちの共演が
見事。年齢もキャリアもばらばらな彼女たちが、それぞれの
個性を全開にした演技は、セイルズがキャスティング実現の
段階で、95%出来上がったと豪語しただけのことはある。
この顔ぶれは、ハリウッド映画で主演を貼る人たちではない
かも知れないが、彼女たちのキャリアはハリウッド映画を語
る上で決して忘れてはならないものばかりだ。そんな個性派
の演技のぶつかり合いが素晴らしかった。
それと、試写会で配られたプレスに寄稿された2つのエッセ
イが、映画の背景を知る上で貴重だった。この種のエッセイ
は、通常は言わずもがなのことが綴られていることが多いも
のだが、今回のエッセイは内容も鋭く、ここだけでなく広く
公表してもらいたいとも思った。
05月14日(金)
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