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On the Production
by 井口健二
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■コカイン・ベア、うかうかと終焉、市子
ドラマ『グランメゾン東京』などの三浦獠太、ドラマ『大病
院占拠』などの乃中瑞生、ドラマ『しろめし修行僧』などの
中山翔貴。
さらに中村無何有、中川可菜、大休寺一磨、コウメ太夫、後
藤剛範、森下能幸、池谷のぶえ、前野朋哉、草村礼子、平泉
成らが脇を固めている。
映画の舞台は東京大学の本郷界隈だが、監督が描いているの
はやはり京都大学吉田寮なのだろう。ただこの寮に関しては
既に2020年3月紹介『ワンダーウォール』がある訳で、現実
の問題点はそちらの方がしっかりと描けていた。
それに対して本作では、中に暮らす学生の姿をより現実的に
描いているとも言えるが、今も紛争中の出来事をうやむやに
するのも作品としては問題になるし、その辺を考慮して東京
にしたのかな。
それはまあより普遍的な青春の姿のようにも見えるが、先の
作品を観た眼からは少し斜に構えた作品のようにも見えてし
まった。先の作品がなければストレートな青春ドラマだった
のだろうが。
公開は10月13日より、東京地区はテアトル新宿他にて全国順
次ロードショウとなる。
『市子』
8月6日紹介『法廷遊戯』などの杉咲花が、現代社会の狭間
に生きる女性を強烈な印象で演じたドラマ作品。
主人公というか狂言回し的に登場するのは1人の男性。彼は
3年間同棲した女性にプロポーズするが、その翌日に彼女は
失踪してしまう。そして警察に捜索願を出すと、1人の刑事
が彼を訪ねてくる。
その刑事は彼女の写真を示し「これは誰か」と尋ねる。しか
し彼には彼女の過去を全く語ることができなかった。それは
彼女が自らの過去を全く語ってこなかったからだ。彼は本当
の彼女を知らなかった。
こうして彼は警察から得たりしたいろいろな手掛かりを基に
彼女の足跡を訪ね歩き、彼女の生涯を辿って行くが…。それ
は20代半ばにして壮絶としか表現のしようのない凄まじい生
き様だった。
もちろんそこには法律制度の歪みなど、社会問題とも言える
ものも介在するが、それ以上の想像を超える彼女の人生が、
巧みな伏線とその回収によって見事に描き出されて行く。正
にドラマツルギーの極致とも言える作品だ。
共演は2020年2月23日付題名紹介『街の上で』などの若葉竜
也と、2007年1月紹介『しゃべれども しゃべれども』など
の森永悠希。さらに『街の上で』などの中田星渚。
また2019年6月23日付題名紹介『イソップの思うツボ』など
の石川瑠華、本作のオリジナルの舞台にも出演の大浦千佳。
そして渡辺大知、宇野祥平、中村ゆりらが脇を固めている。
脚本は2018年2月11日付題名紹介『ばぁちゃんロード』など
の上村奈帆。監督は1983年生まれでチーズfilm代表取締役と
いう戸田彬弘。監督はチーズtheater という劇団も主宰して
おり、本作はその旗揚げ公演作の映画版のようだ。
2本続けて舞台からの映画化作品の紹介となったが、本作は
舞台版の題名が「川辺市子のために」ということで骨子は同
じでもかなり改編されているようだ。その舞台版のことは不
知だが、証言集のような構成だったとされる。
ということはもっと訪問先での会話が中心だったのかな。そ
れに対して映画では市子という女性の生き様が映像として丁
寧に描かれていたもので、様々な環境の中で必死に生き抜い
てきた姿がリアルに観客に迫ってくるものになっていた。
実はネタバレになるので詳しくは言えないが、今年観た映画
の中で最も重要な1本と言える感じのする作品だった。
公開は12月8日より、東京地区はテアトル新宿、TOHOシネマ
ズシャンテ他にて全国ロードショウとなる。
08月20日(日)
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