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On the Production
by 井口健二
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■郊外の鳥たち、アラビアンナイト 三千年の願い、屋根の上のバイオリン弾き物語、エッフェル塔〜創造者の愛〜
『マッドマックス』4部作などのジョージ・ミラー監督が、
2015年6月紹介『マッドマックス怒りのデス・ロード』から
8年ぶりの監督を務めた作品。
物語のテーマは魔法のランプ。そこから登場する魔神(ジン)
が約束する「三つの願い」に何を願うかは、この手の物語で
は究極の命題と言えるものだ。そんな究極の物語は1994年に
発表されたイギリスの作家A・S・バイアットの短編小説を
原作としている。
と言っても原作は短編ということだから、映画のストーリー
の大半はオリジナルで創作されたものだろう。そこで登場す
るのはナラトロジー(物語論)の専門家の女性。その考え方は
「神話は科学に取って代わられ、神々や魔物はメタファーと
化す」というものだ。
ところがそんな女性がトルコのイスタンブールで開かれた学
会での講演中に意識を失ってしまう。それは彼女の想像力が
強すぎる結果とされるが…。学会の閉幕後に気分直しでバザ
ールに立ち寄った彼女は、土産物屋で古びたガラスの小瓶を
手に入れる。
そしてホテルの洗面台で小瓶にこびりついた泥を洗い落とす
と蓋が外れて白煙と共に魔神(ジン)が現れ、そのジンは彼女
に「三つの願いを叶える」と告げる。しかしナラトロジスト
の彼女は、「三つの願い」の結末が常に失敗に終わることを
知っていた。
そこで彼女は願いを告げることを延期しながら、ジンの今ま
での来歴を聞き始めるが…。それは三千年に及ぶジンの生涯
にとっては悲恋の繰り返しとも言えるものだった。そんな中
から、果たしてナラトロジストは究極の命題の答えを見つけ
出すことができるのか?
出演は、2012年7月紹介『プロメテウス』などのイドリス・
エルバと、2018年12月紹介『サスペリア』などのティルダ・
スウィントン。
なおジョージ・ミラー監督は製作と脚本も手掛けているが、
脚本には監督の娘のオーガスタ・ゴアも参加している。その
ゴアは初脚本だが、元々は監督が1992年『ロレンツォのオイ
ル』で組んだニック・エンライトに打診したところ脚本家が
病に倒れてしまい、その脚本家の推薦で娘との共作が決まっ
たそうだ。
そして父子はエンドロールに流れる楽曲の作詞も共同で手掛
けている。
正直に言って2022年8月26日に一般公開された米国ではあま
り高い評価にはならなかったようだ。それはまあ監督の名前
で『マッドマックス』を期待した観客には肩透かし感は生じ
るかもしれない。しかし監督の作品には『ベイブ』や『ハッ
ピー・フィート』などもあるのだから…。
とは言うもののもう少し外連は欲しかったかな。特にアラビ
アンナイトの再現では、あそこまで豪華なセットを作るなら
そこに何か大仕掛けがあってもいいような感じはした。それ
にラヴストーリーをもっと明確にして欲しかったかな。その
辺が少し物足りなく感じるところではあった。
公開は2月23日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

『屋根の上のバイオリン弾き物語』
        “Fiddler's Journey to the Big Screen”
2017年3月紹介『ハロルドとリリアン』を手掛けたダニエル
・レイム監督が、同作にも登場したミュージカル映画ついて
描いた映画愛に溢れるドキュメンタリー。
1964年にニューヨークで初演されたミュージカルは1972年ま
でロングランを続け、日本でも1967年から86年まで上演され
るなど世界中で大ヒットを記録した。そんな作品が1971年に
映画化される。しかし舞台はヒットしてもユダヤ人の物語に
他の民族の観客が来る訳はないと危惧の声は高かった。
そんな作品を手掛けたのはカナダ出身でテレビ界でキャリア
を積んできた監督ノーマン・ジュイソン。1967年『夜の大捜
査線』で評価の高まった監督は、「冒険だったから」という
理由でこの難関に挑んで行く。そしてそれは周到な準備の許
で開花して行くことになる。
本作ではその舞台裏を、ジュイソン本人は基より、映画版の
音楽を担当したジョン・ウィリアムス、美術担当のロバート

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01月15日(日)
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