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On the Production
by 井口健二
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■世界は僕らに気づかない、小さき麦の花、レジェンド&バタフライ
もなく、そんな2人の暮らしぶりを家族同然の1頭のロバが
見つめている。
出演は主人公を含むほとんどの配役を撮影地の村人が演じて
おり、その中には監督の家族も含まれているようだ。ただし
主人公の妻だけは、2011年11月紹介チェン・カイコー監督の
『運命の子』などに出演の俳優ハイ・チンが演じている。
物語は淡々として特にドラマティックな展開がある訳でもな
いが、監督の故郷という中国甘粛省張掖市花牆子で10ヶ月を
かけて撮影された自然と季節の移ろいは、観る者に自らの原
点に還らされるような厳粛な感覚をもたらしてくれる。
そんな映像で描かれる2人の生活は貧しいし、幸せそうでも
ないが、2人の間では満足し、充実していたのかな。それが
幸せと呼べるのかな、そんな感覚にもさせてくれる作品だっ
た。
なお本作は中国では2022年7月8日に公開されたものだが、
封切りから約2ヶ月が過ぎた9月初旬に突然日別興行成績の
トップに躍り出たそうだ。その背景には SNSなどでの高評価
があるようだが、いわゆる芸術映画では稀とのこと。
それは中国で都会に暮らす若者が大いなる関心を寄せた結果
と言われているようだ。国情は違うけれど日本の若者にも、
同じような関心は呼びそうだ。
日本での公開は2023年2月10日より、東京はYEBISU GARDEN
CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国順次
ロードショウとなる。
『レジェンド&バタフライ』
11月6日に行われた「ぎふ信長まつり」で観覧者40万人を超
えるプロモーションを行った木村拓哉が相手役に綾瀬はるか
を迎え、織田信長と濃姫の運命を描いた戦国歴史絵巻。
世は戦乱の西暦1549年、美濃の斎藤道三と尾張の織田信秀は
和議を結び、織田家の嫡男信長の許に道三の娘が正室として
嫁いでくる。しかし「大うつけ」とまで言われる信長と「マ
ムシの娘」と呼ばれる男勝りの道三の娘は最初からぶつかり
合う有り様だった。
そんな2人が少しずつ間を狭め、清州城から岐阜城、そして
上洛、さらに安土城へと昇りつめて行く。その間には桶狭間
の戦い、金ヶ崎・姉川の戦い、比叡山延暦寺の焼き討ち、長
篠・設楽原の戦いなどが繰り広げられる。その果てに本能寺
の変が待ち構える。
という歴史を準って行く物語だが、実は斎藤道三の娘濃姫に
関しては、信長の正室であることは確かだが、その他の記録
がほとんど残されていないのだそうで、そこに本作のような
フィクションを持ち込むことに制限がなかったようだ。そこ
に本作では飛び切りのロマンが盛り込まれた。
そこにはある種のファンタシーとさえも言えるような素敵な
物語が展開されている。そこではもちろん歴史上の事実は動
かせないが、その最期の瞬間に向って行く様が、見事なドラ
マに昇華されている作品でもあった。虚実の絡み合いが見事
に機能している物語だ。
脚本は『ALWAYS三丁目の夕日』などの古沢良太。監督は『る
ろうに剣心』などの大友啓史。撮影は東映京都撮影所。何で
も木村が2014年TVドラマ『宮本武蔵』を主演で撮った際に
「次は信長で、ここに戻ってきたい」と言い置いたそうで、
そんな思いのこもった撮影になっている。
共演者には伊藤英明、中谷美紀。そして宮沢氷魚、市川染五
郎、音尾琢真、斎藤工、北大路欣也。さらに尾美としのり、
本田博太郎、橋本じゅんらが脇を固めている。
公開は2023年1月27日より全国ロードショウとなる。
上映時間は2時間48分。なお本作試写会は封切りまで全13回
が予定されているが、上映は通常の試写室ではなく、すべて
丸の内TOEI@の大スクリーンで行われているもので、本作は
それに耐えうる作品であり、本作に賭けるその思いも伝わっ
てくるものだった。
因に岐阜城には、長良川競技場にJリーグの応援で行った際
に何度か登っているが、本作ではその往時の姿が再現されて
いるのも興味深かった。
12月04日(日)
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