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On the Production
by 井口健二
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■生きててごめんなさい、いちばん逢いたいひと、恋のいばら
映画では骨髄移植に向かうまでの手順なども丁寧に描かれて
おり、その啓蒙という点では申し分のない作品と言える。
そしてそこにある意味で波乱万丈のドラマが盛り込まれてい
るものだが、どこまでが実話かは知らないが、脚本も手掛け
た丈監督は、深刻であったりユーモラスな部分もあったりの
ヴァラエティに富んだ構成で巧みに描いている。
因に丈監督は大衆演劇の梅沢武生劇団の出身だそうで、人情
劇にコメディを織り込む手法はそこで培われたものかもしれ
ない。いずれにしても深刻さの中に緩急を付けるドラマ作り
は正しく王道と言える感覚だった。
特にドナーと警察とのくだりは、巧みな幕間劇という感じに
もなっているものだ。ただ骨髄移植に関しては、近年は臍帯
血の適用なども進んでおり、その辺の情報も少しは入れて欲
しかったかな。主旨とは離れてしまうかもしれないが。
とは言え、ドナー登録の意義を伝える映画としては良くでき
た作品であり、広く一般に観て貰いたい作品だ。
公開は、2023年2月17日よりロケ地の広島県と栃木県で先行
上映の後、東京はシネ・リーブル池袋他にて全国順次ロード
ショウとなる。
『恋のいばら』
2004年11月6日第17回東京国際映画祭(アジアの風)で紹介
の黄詠詩(パン・ホーチョン)監督、香港映画『ビヨンド・ア
ワ・ケン』を、2022年5月紹介『ビリーバーズ』などの城定
秀夫監督でリメイクした作品。因に城定監督がリメイクを手
掛けるのは初めてのことだそうだ。
主人公は図書館に司書として勤める24歳少し地味目な女性。
最近彼氏にフラれたが、その理由が判らず悶々としている。
そんな女性が SNSで彼氏の今カノを発見。その今カノが彼女
とは正反対の華麗なダンサーだったことに驚く。
そこで元カノは今カノの行動を調べ上げ、今カノの行く先に
現れて接近して行く。そしてついに接触に成功した元カノは
今カノにある作戦への協力を求める。それは彼氏のPCに保存
された自分の写真を消去したいというもの。
それは彼氏が元カノの画像を SNSなどに公開する「リベンジ
・ポルノ」を阻止したいという申し出だった。そして今カノ
もその不安に駆られ、2人は共同作戦を開始。しかもそこで
彼氏のルーズな女性関係も明らかになって…。
出演は2019年12月22日題名紹介『酔うと化け物になる父がつ
らい』などの松本穂香と、2022年7月紹介『窓辺にて』など
の玉城ティナ。他に渡邊圭祐、中島歩。さらに不破万作、片
岡礼子、白川和子らが脇を固めている。
脚本は2020年1月19日題名紹介『影裏』などの澤井香織と共
同で書かれており、女性の視点が作品にも表れている感じか
な。また音楽を1997年黒沢清監督の『CURE−キュア−』や清
水崇監督『呪怨(ビデオ版)』などのゲイリー芦屋が担当して
いる。
オリジナルは、当時の紹介を読み直すとどちらかと言うと物
語を今カノの側から描いていたようで、リメイクではそれを
逆転させている感じかな。ただしそれは少し危険も伴うが、
その辺は城定監督が巧みに回避している感じでもある。
そしてそれが結末をより明確にしている感じもして、このリ
メイクは巧みな計算の結果とも思えるものだ。特に元カノの
視点で今カノを観ている感じが2人の女優のキャラクターと
も相まって、いい雰囲気にも感じられた。
それに男性の視点が完全に排除されているのも、物語として
面白く感じられたものだ。なおオリジナルの主演はジリアン
・チョンだが、彼女は2008年のエディソン・チャン写真流出
事件に巻き込まれたもので、2004年作は予言だったかな?
公開は2023年1月6日より、東京はTOHOシネマズ各館や渋谷
シネクイント、イオンシネマ板橋、アップリンク吉祥寺他に
て全国ロードショウとなる。
11月27日(日)
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