ID:47635
On the Production
by 井口健二
[459550hit]
■シャドウプレイ、とべない風船、母の聖戦
2018年の豪雨災害に関しては、その少し後に行った広島遠征
で山陽本線の車窓から見えたそこここにある山崩れの爪痕が
衝撃だったものだが、実際に 100人以上が亡くなった出来事
の記憶が部外者の僕にも鮮明に甦ってきたものだ。
それを思い出させるのも本作の目的の一つだろうし、その意
味では充分にその力を発揮した作品だったと言える。1980年
生まれの監督が長編デビュー作として、正しく満を持した感
じも伝わってくる作品だ。
ただ一点、劇中で奇異に感じたところがあって、それは浅田
が演じる居酒屋のシーンでカウンターに置かれるビールの瓶
が全て後ろ向きだったことだ。まあ酒飲みであればそれでも
銘柄は判るものだが、これはスポンサーの意向なのかな。
主演男優のトラブルのことも考えると、何となく勘ぐってし
まうところだった。
公開は12月より広島県で先行上映の後、東京は2023年1月か
ら新宿ピカデリー他にて全国順次ロードショウとなる。
『母の聖戦』“La civil”
ベルギー、ルーマニア、メキシコの合作で、メキシコで横行
する誘拐ビジネスの恐怖を描き、2021年の東京国際映画祭で
審査員特別賞を受賞した作品。
主人公はメキシコ北部の町に暮らすシングルマザーの女性。
10代で少し反抗期の娘との2人暮らしだったが、ある日その
娘が犯罪組織に誘拐される。そして要求された身代金は彼女
には払いきれない額だった。
そこで彼女は娘の父親にも頼み込み、それなりの金品を用意
して組織の手先の男に手渡すが娘は解放されず、さらに過大
な要求が突き付けられる事態となる。そこでやむなく母親は
警察に訴え出るのだが…。
その訴えは直ちに組織に内通され、さらなる要求が突き付け
られる。この事態に彼女が取った手段は…?
脚本と監督はルーマニア出身でチャウセスク政権下の圧制を
逃れてベルギーに渡り、さらにアメリカで学んだというテオ
ドラ・アナ・ミハイ。元々ドキュメンタリーの制作者だった
女流監督は当初は本作もその手法の予定だったという。
ところが本作のモデルとなった女性の取材を続ける内に、そ
の取材に大きな危険が伴うことを感じ取り、その危険を回避
するためにドラマにすることを決意したというものだ。しか
し危険は回避しきれなかったようだ。
共同脚本は、監督の学生時代からの友人というメキシコ人の
アバクク・アントニオ・デ・ロザリオ。以前から麻薬戦争と
それが市民に与える影響をテーマとした執筆活動で受賞歴も
あるという作家の協力が迫真のドラマを作り上げている。
出演は、母親役をNetflixなどで100本以上の映画、テレビに
出演しているベテランのアルセリア・ラミレス。他にメキシ
コを代表する俳優と言われるアルバロ・レゲロ、さらにホル
ヘ・A・ヒメネスらが脇を固めている。
映画の後半では軍隊まで登場して麻薬組織との対決が描かれ
る。それがどこまで実話に則したものかは判らないが、実は
取材に応じて物語のモデルとなった女性は、その後に組織の
報復で惨殺されたそうだ。
プレス資料には誘拐は割に合わないと書かれているが、実際
には今も誘拐ビジネスは横行しているされる。麻薬組織との
闘いの難しさが如実に描かれた作品とも言える。
公開は2023年1月20日より、東京はヒューマントラストシネ
マ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA他にて
全国順次ロードショウとなる。
11月20日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る