ID:47635
On the Production
by 井口健二
[459634hit]

■マタインディオス、戦争と女の顔、女神の継承、神々の山嶺
・ミロシニチェンコとヴィシリサ・ペレリギナ。この二人の
演技が素晴らしい。他にアンドレイ・ヴァイコフ、クセニア
・クテボア、イーゴリ・シローコフ、コンスタンチン・バラ
キレフ、ティモフェイ・グラスコフらが脇を固めている。
製作は、ウクライナ・キーウ出身で2012年12月紹介『クラウ
ド・アトラス』などハリウッド映画も多数手掛けるアレクサ
ンドル・ロドニャンスキー。脚本と監督は、ロシア連邦内の
カバルダ・バルカル共和国出身で本作が2作目のカンテミー
ル・バラーゴフが手掛けた。
映画には600mのセットを組んで走らせたという往時の路面電
車や1938年製のメルセデスベンツなども登場するが、これら
はサンクトペテルブルグの交通博物館から借り出したもの。
特にベンツを運転するシローコフには特別な緊張があったと
思うが、実は彼の本業は美術監督なのだそうだ。
原作は第2次世界大戦に従軍した 500人余りの女性元兵士に
インタヴューして纏められたというものだが、勝利した闘い
の戦後でもこれだけの苦しみが残っている。特にPTSDに関し
ては近年いろいろな情報を見聞きする機会も増えているが、
本作ではもっと根源的な傷病も登場する。
そんなこともひっくるめて戦後になっても続く戦争の悲劇が
鋭く描かれた作品だ。それが様々な描写を通じて徐々にしか
も着実に観る者の胸に迫ってくる。そんな感じにもなる。そ
してその戦争が今現在も続けられている。そんな悲しい思い
にもさせられる作品だった。
公開は7月15日より、東京は新宿武蔵野館、ヒューマントラ
ストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウとなる。

『女神の継承』““ร่างทรง/랑종”
2017年1月15日に題名紹介した韓国映画『哭声/コクソン』
などのナ・ホンジン監督が原案と製作を担当し、2014年8月
紹介『愛しのゴースト』などのタイ国の俊英バンジョン・ピ
サンタナクーンが脚本と監督を手掛けた作品。
舞台はタイ国東北部のイサーン地方。その地方では代々受け
継がれる祈祷師が病気の治療や悪霊のお祓いを行っていた。
そんな祈祷師の一人の女性に密着取材が試みられる。その女
性は、本来継ぐはずだった姉がキリスト教に改宗して勤めを
拒否したために祈祷師を継いだものだった。
そんな姉にはすでに社会人となっている娘がいたが、取材を
始めてほどなくその娘に異変が生じ始める。そこで取材班は
その娘にも密着取材を始めるのだが…。取材陣のカメラや市
中の監視カメラの映像などを通じて、祈祷師一族を襲う恐怖
がモキュメンタリーの手法で描かれて行く。
出演は、監督の前作『一日だけの恋人』にも出ていたという
舞台女優のサワニー・ウトーンマと、オーディションで抜擢
されたナリルヤ・グルモンコルペチ。特に後者には『哭声/
コクソン』や2017年7月紹介『新感染ファイナル・エクスプ
レス』などのパク・ジェインの指導の許、撮影中に約10sの
減量を含む役作りが行われたそうだ。
監督の2014年作に関しては、上記の記事を読んで貰えば判る
ように気に入っていない部分はある。しかし作品全体として
は適度なユーモアもあって評価したくなるものではあった。
その点に関して本作は少しやりすぎの感はしてしまうかな。
正直に言ってしまえばタイ映画の良さが消えて、韓国映画の
どぎつさが目立つ感じはしてしまった。でもまあこの方が今
の観客には受けるのだろう。その辺を判っての本作と思う。
後はこれが監督の次の作品にどのように反映されるか。それ
を期待して待ちたいところだ。
公開は7月29日より、東京はシネマート新宿、ヒューマント
ラストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウとなる。

『神々の山嶺』“Le sommet des dieux”
日本では2016年に実写映画化された夢枕獏原作による山岳小
説から、故谷口ジロー氏(2017年に逝去)の作画によって発表
された漫画作品に基づき、前々作でセザール賞長編アニメー
ション映画賞を受賞のパトリック・インバート監督が制作。

[5]続きを読む

05月22日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る