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On the Production
by 井口健二
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■ビリーバーズ、ゆめパのじかん、スープとイデオロギー
この映画を観ていてこの場所がユートピアなのだろうとは感
じる。それは自分が子供の頃にこの場所に出会いたかったと
いう思いにも繋がる。そしてそれがこの映画の作り手の意図
でもあるし、それに乗せられているという感覚にもなる。も
ちろんこの作品に嘘はないし、その意図は真摯なものだ。
でも観ていて何か違和感は残る。それはもちろんやらせ等が
ある訳ではないが、どことなく暗部が隠されているような、
そんな気分にもなってしまったのだ。ただしそれは、本作が
このような活動を広めたいという意識下では許容されるべき
ものだろう。
ここはその考えに乗ってあげなければいけない。大人の下衆
な考えは排除すべき作品だ。ただ思うのは、登場した子供た
ちがしっかりその道を進んで欲しいということだ。大人には
夢の時間が広がる作品とも言える。
公開は7月より、東京はポレポレ東中野他で全国順次上映と
なる。

『スープとイデオロギー』
2006年7月紹介『ディア・ピョンヤン』などのヤン・ヨンヒ
監督が、2011年2月紹介『愛しきソナ』に続けて三度放つ、
南北と日韓の狭間に暮らす朝鮮半島に起源を持つ一家を描く
ドキュメンタリー。
監督の映画作品ではもう1本、劇映画として撮られた2012年
7月紹介『かぞくのくに』があるが、それぞれの紹介記事を
読んで貰えば判るように、いずれもが家族の内輪の話を描い
ていた。しかしそこには南北と日韓の問題が色濃く反映され
ていたものだ。
これらの作品に対しては、「いつまで家族をさらけ出してい
るのだ!」という批判もあるようだが、僕は上記したように
それらの作品の中に垣間見える三国間の問題提起に納得して
おり、それ故にどの作品にも好評価を贈ってきたつもりだ。
ある一点を除いては…。
その一点とはこれらの作品において、済州島の出身とされる
監督の両親が、何故にここまで北朝鮮に肩入れするのかとい
うことだった。それは2011年、12年の作品において北朝鮮の
現実が明らかになった後でも揺るぎがなかった。その真相が
本作で明らかにされる。
それは作品の冒頭で病床にいる監督の母親の述懐に始まり、
文在寅政権によって北朝鮮国籍を取得した在日の人にも韓国
渡航ができるようになったことでの済州島への再訪によって
描かれる。さらにアニメーションによってその事実が克明に
再現される。
因にこの出来事を描いた韓国映画では、2013年に『チスル』
という作品が初めてタブーを破ったとされているようだが、
その年号から判るようにヤン監督の前作の当時には語ること
もできないものだったのだろう。正に韓国現代史における暗
部とも言える出来事だった。
そんな事実がようやく語られたということだ。それにしても
こんな思いを胸に秘めたまま生き続けてきた母親の姿にも感
動した。もちろん韓国での出来事だし、日本人の僕には関係
のない話だが、実際に母親が済州島を再訪したときの様子に
は、僕は観ていて涙が禁じえなかったものだ。
なお、作中では美味しそうな鶏料理のレシピも紹介される。
また音楽監督を2018年3月11日題名紹介『タクシー運転手』
などのチョ・ヨンオクが担当しているのも注目される。
公開は6月11日より、東京は渋谷ユーロスペース、ポレポレ
東中野他で全国順次ロードショウされる。

05月15日(日)
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