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On the Production
by 井口健二
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■デッド・ドント・ダイ、君の誕生日(はるヲうるひと、薬の神じゃない!、サイコマジック、のぼる小寺さん、裏アカ、ハニーランド永遠の谷)
は打ち解け始め、娘の遠足には父親が同行するのだが…。潮
干狩りの海辺で娘は水に入ることに異常な拒否反応を示し、
それを妻は夫の無理解と叱責した。
そして妻子が転居したことには、夫の裁判費用を工面するた
めだったという理由も語られる。
共演者には見事な演技を見せる子役のキム・ボミン、2008年
『チェイサー』などの製作者で脚本家としても知られるキム
・スジン。さらにユン・チャニョン、イ・ボンリョンらの若
手が脇を固めている。
例によって事前の情報を入れないで観ていた僕には上記の展
開は謎だらけだった。しかしその後の妻がスマホのlineを見
るシーンで謎は一気に解けた。本作は、2014年4月16日のセ
ウォル号沈没事故を背景としたものだったのだ。
修学旅行の高校生を含む300人以上が犠牲となったこの事故
では、脱出不能となった船内から送られたメールやSNSが
さらにその悲劇性を高め、韓国の人たちにはその後の政府の
対応なども含めて生涯忘れえぬ記憶となった。
本作はその事故の話を初めて映画化したものだ。従って本作
では、韓国の人たちは当然物語の背景を知った上で鑑賞した
もので、その点では僕の鑑賞は間違ったものになる。しかし
それでも本作は充分に高く評価できる作品だ。
しかも上記の状況を理解した上でも夫=父親の経緯には謎が
残り、それが物語に深みを与える。そしてその謎が全て明ら
かになった後に描かれる最後のシーン。それは30分のドラマ
を3台のカメラで一気に捉えたという究極の映像だ。
脚本と監督は、チョン・ドヨン主演2008年4月紹介『シーク
レット・サンシャイン』などのイ・チャンドン監督の許で研
鑽したというイ・ジョンオンの長編デビュー作。監督自身が
2015年ヴォランティアでの体験を基に描いた作品だ。
内容は全く異なるが、映画としては前回題名紹介の河瀬直美
作品にも通じるところを感じるもので、これこそが映画の力
を体現している作品と言える。セウォル号被害者の遺族への
上映会でも大きな賛辞を得たそうだ。
公開は6月5日より、東京はシネマート新宿他で全国ロード
ショウとなる。

この週は他に
『はるヲうるひと』
(最近はクイズ番組のMCでも注目の俳優佐藤二朗の原作に
より、自ら主宰の劇団で2009年に初演、14年に再演した舞台
を佐藤の脚本、監督、出演で映画化した作品。そこは本土か
ら1日2便の連絡船が往来するという架空の離島。至る所に
置屋が点在する正に売春島だ。その1軒の置屋には父親の跡
を継いだ兄弟と妹が4人の娼婦と共に暮らしていた。しかし
弟妹と腹違い兄はトラウマからか凶暴・凶悪に店を支配し、
弟妹はその陰で必死に生きていたが、病弱で客を取らない妹
には娼婦の嫉妬も湧いている。共演は山田孝之と仲里依紗。
他に坂井真紀とオーディションで素人から大抜擢された駒林
怜。また舞台にも出演の今藤洋子、笹野鈴々音、兎本有紀、
大高洋夫、太田善也。さらに向井理らが脇を固めている。か
なり壮絶な展開で、佐藤に鬼才の二文字が冠されるのも頷け
る作品。そこに山田がさらに上積みをしている。公開は5月
15日より、東京はテアトル新宿他で全国ロードショウ。)

『薬の神じゃない!』“我不是药神”
(中国の薬事法に関り、最終的にその改正を促したとされる
実話に基づく作品。主人公はインドから強壮剤の輸入をして
いた漢方薬店の店主。商売は低迷して店も追い出されそうに
なった主人公にインド製のジェネリック薬の買い付けが依頼
される。その薬は正規のスイス製のみが承認されていたが、
その価格は庶民には手の届かないものだった。そこで主人公
は人助けでインド薬の密輸を始めるが…。出演は2019年6月
30日題名紹介『帰れない二人』などのシュー・ジェン。脚本
と監督は新人のウェン・ムーイエが手掛けた。背後には汚職
の匂いもするが今の中国映画ではそこは追及せず、美談で描
かれる。因に映画の後半に鉄道の切符が出てくるが、その行
き先が「凱里」。そこで中国の時刻表を調べてみたら「南上

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03月22日(日)
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