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On the Production
by 井口健二
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■SKIN、ワンダーウォール(精神0、はちどり、色男ホ、イップ・マン4、アドリフト、水上のF、吉開菜央、心霊喫茶、HOKUSAI、窮鼠はチーズ)
家の渡辺あやが、京都府に建つ国立大学の学生寮で現在進行
中の出来事をモティーフに執筆し、2018年にNHK京都から
放送されたドラマの劇場版。
映画の中では偽名になっているが、実際は京都大学吉田寮。
因に所在地は京都府京都市左京区吉田近衛町。
1913年に建てられた木造2階建ての寮舎は、2009年に京都府
教育庁指導部文化財保護課が「(保護すべき)京都府の近代和
風建築」にリストアップし、2015年には日本建築学会近畿支
部が「保存活用に関する要望書」を提出した由緒ある建造物
だが、大学当局は一貫して立て直しを主張している。
物語はそんな背景の学生寮を舞台に展開される。そこで主人
公はインターネットで見つけた学生寮に憧れて難関大学入学
を目指した新入生。その寮は学生による自治会が運営して、
寮内では先輩に対しても敬語が禁止されるなど、自由な気風
に溢れていた。
ところが合格して入寮するなり、寮舎が存続の危機にあるこ
とを知らされる。それは大学側が耐震性に問題があると主張
しているものだが、その裏には別の事情もあるようだ。そし
てその是非を巡る交渉を行おうとする学生自治会と大学当局
の学生課との間に「壁」が作られる。
それでも交渉の継続を求めて壁の前に押し掛ける主人公たち
だったが…。その壁に新たな障害物が現れる。
出演は1500人の応募者の中からオーディションで選出された
2019年5月12日題名紹介『よこがお』などの須藤蓮。2017年
10月15日題名紹介『デメキン』などの三村和敬。2020年2月
23日題名紹介『街の上で』などの若葉竜也。
他に2019年4月28日題名紹介『新聞記者』などの岡山天音、
2015年『3泊4日、5時の鐘』などの中崎敏。さらに山村紅
葉、成海璃子らが脇を固めている。
映画の中で先に行われていたとされる交渉の経緯は事実に即
したもので、一度は「吉田寮現棟の耐震強度を十分なものと
し、寮生の生命・財産を速やかに守るために、吉田寮現棟を
補修することが有効な手段であることを認める」という確約
がなされたものの、大学側が一方的に破棄したものだ。
その再現された交渉の様子は、学生側の理路整然とした論拠
に大学側がたじたじとなるなど、1970年代の学生運動の時代
を彷彿させるものになっていた。そこでの気骨溢れる学生の
名前に三船と志村という黒澤明監督作品の名優の名前が冠さ
れているのも、その時代への憧憬なのだろう。
とは言えこの交渉が行われたのは21世紀な訳で、2020年2月
紹介『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』で時代の終
焉を感じていた僕には、今もこの熱い青春が残っていたこと
が嬉しくもなった。今後の学生寮の存続は不明だが、1970年
『いちご白書』のような結末となるのか?
映画の中でも学生の気持ちの衰えは否めないようだったが、
そこに付けられたエピローグは新たな希望も抱かせた。
監督はNHK京都放送局でドキュメンタリーの制作などを手
掛けていた前田悠希のドラマ初演出作。音楽を2012年3月紹
介『サイタマノラッパー』シリーズなどの岩崎太整が担当。
主題曲は重要な役割を担っている。音楽が持つパワーも感じ
させる作品だ。
公開は4月10日より、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次
ロードショウとなる。
この週は他に
『精神0』
(2007年5月紹介『選挙』から続く想田和弘監督
の最新作は、2009年4月紹介『精神』の続きだった。その前
作に登場した山本昌知医師がある事情から診療所の閉鎖を決
断し、そこからの医師の行動がされる。とは言うもの
の本作がかどうかには疑問を呈する。それは監督
自身が提唱する十戒の第1項に抵触すると感じるからだ。そ
れは前作において本作のリサーチは行われている訳で、それ
をしないとするとは異なる。しかしそれによって
本作の老夫婦の深い絆が描けたものではあるが…。そこでは
の厳しさが抜け落ちた感じもして、特に診療所が
閉鎖されて後の患者の行く末などにが出来ていない感
じもした。ここは2011年4月紹介『Peace』と同様の番
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03月08日(日)
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