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On the Production
by 井口健二
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■第32回東京国際映画祭<コンペティション部門>
何かにつけて彼女を獣医の道に戻らせようとしていたが…。
今回のグランプリ作品だが、開幕と結末の状況が変わらない
ことが僕には納得できず、不満の残る作品だった。これが現
実と言われればそれまでだが、最近の映画に未来を展望でき
ない作品が多いのは社会情勢のせいなのだろうか。

『列車旅行のすすめ』“Ventajas de viajar en tren”
精神病患者の言動を記したというファイルに踊らされる人々
を描いた作品。3章立てだが、各章の題名と内容が一致しな
いなど全体が病んだ感じの作品だった。しかも内容がグロテ
スクで見ていた辟易した。ただ以前あった同様の作品では上
映中に立つ観客が目立ったが、今回は数人の馬鹿笑いしてい
る人もいて、こういう作品が受け入れられるのかと時代の変
化も感じてしまったところだ。とは言っても僕の趣味には全
く合わない作品だった。

『戦場を探す旅』“Vers La Bataille”
1863年、フランス干渉戦争を背景にした初期の戦場カメラマ
ンを描いた作品。主人公はフランスで報道写真家だったが、
メキシコでの戦闘を撮るべくやってくる。しかし将軍の命は
受けたものの軍隊とはぐれ、そこで現地人との交流や脱走兵
に翻弄されるなど、様々な苦難を味わうことになる。一方で
当時の撮影技術の紹介や、さらにはアメリカ人カメラマンが
捏造写真を撮っているなど、現実は知らないが在りそうな話
が続く作品だった。

『ジャスト6.5』“تری شیش و نیم”
麻薬患者が100万人から650万人に急増したというイランで、
麻薬組織と対決する警察の姿を描いた作品。と言っても正義
の警察という感じではなく、さらに組織側のトップに関して
も相応の情状が語られるなど、かなりエンターテインメント
性豊かな作品になっている。しかも虚々実々の捜査の展開や
ホームレスの一斉検挙など多人数のモブシーンも繰り返し描
かれ、正に大作という感じの作品だ。映画祭では最優秀監督
賞と最優秀男優賞にも輝いた。

『マニャニータ』“Mañanita”
イランに続いてはフィリピンの警察で、こちらは麻薬組織の
検挙の現場で哀愁を込めた歌によって投降を促すという実際
に行われている作戦を背景とした作品。主人公は軍隊の女性
スナイパー。実績では勲章も貰った女性が素行の問題で任を
解かれる。そこから彼女はある男を追い始める。そんな彼女
の行動が明るい南国の景色の中でに描かれる。昨年上映『悪
魔の季節』のラヴ・ディアス監督が脚本を手掛けたもので、
フィリピンの歌謡曲もふんだんに聞ける作品だ。

『湖上のリンゴ』“Aşık”
凍結した湖の氷の上に置かれた齧り掛けのリンゴを巡って、
その来歴が描かれる作品。主人公の少年はアシュクと呼ばれ
る吟遊詩人の卵。サズという弦楽器を演奏しながら即興で事
物を歌い上げる。そんな少年が年上の女性に恋をするが、彼
が呼ばれたのは彼女の婚礼の席だった。そんな切ない初恋の
物語と、歌合戦など吟遊詩人の伝統が描かれる。それは旱魃
の続いた1960年代の夏の出来事。少年はリンゴに願いを託す
が…。雨乞いの犠牲などトルコの伝統も描かれる。

『ばるぼら』
手塚真監督が父・手塚治虫の作品に挑戦した作品。人気実力
を兼ね備えた作家が場末の地下道で酔いつぶれた女を拾う。
しかしその女は魔性だった。そんな女に作家は翻弄される。
手塚漫画の中では異質とされる原作のようだが、こんな手塚
も面白い。そんな作品を息子が巧みに描き切った。これは今
までの手塚真作品とは一線を画した何かが吹っ切れたような
作品だ。映画祭での評価には添い難いかもしれないが、僕は
この作品を支持したいと思う。

『チャクトウとサルラ』“白雲之下”
内モンゴルの草原を舞台にした若い夫婦の物語。同地出身の
作家・漠月による原作の映画化。結婚5年、心から愛し合う
2人だったが、その価値観には大きな隔たりがあった。草原
を愛する妻はその地を離れようとせず、夫は都会に出てさら

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11月06日(水)
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