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On the Production
by 井口健二
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■王宮の夜鬼、ある船頭の話(左様なら、永遠の門 ゴッホ、閉鎖病棟、アナベル 死霊博物館、108、ガリーボーイ、トスカーナの幸せレシピ)
明治期と思われる山間の川の渡し船を背景に、近くで架橋工
事が進む中での船頭と乗客との交流が描かれる。その中には
犯罪の係るミステリーの匂いもし、ファンタスティックな描
写も含む物語が展開される。
以前は何便もあったとされる渡し船も、残るは1便だけ。そ
れでも船頭は、余所者からは船賃を取るが地元の村人は無料
で渡しを続けている。そんな船頭の耳には様々な噂話も聞こ
えてくる。
その一つは上の村で起きた一家の皆殺し事件で、その家の娘
は行方不明だという。そんな折に船頭は川を流れてきた若い
女を救助する。そして船頭の許に足繁く訪れる若者と共に女
を介護し、女は回復するが…。
他にも猟師の息子が亡くなった父親を山に還す話など、いろ
いろな出来事が船頭の周囲で繰り広げられる。そこには便利
を追い求める人間への風刺も込められているようだ。そして
橋の建設が進められる。
出演は11年ぶりの映画主演という柄本明と、オーディション
で抜擢された2019年2月3日題名紹介『笑顔の向こうに』な
どの川島鈴遥、2018年12月紹介『チワワちゃん』などの村上
虹郎。
他に伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優、笹野高史、草笛
光子、細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功、くっきー、河本準一ら
が脇を固めている。それぞれ、ここにこの役者が…と思わせ
る見事なキャスティングだ。
撮影監督は『宵闇真珠』の監督も務めたクリストファー・ド
イル。衣装を1985年『乱』でオスカー受賞のワダエミ。音楽
にはアルメニア出身の新進作曲家ティグラン・ハマシアンが
初挑戦している。
オダギリは2008年に『さくらな人たち』という65分の作品を
脚本、監督しているが、本作の構想もその頃に始まっていた
ようだ。しかしその中で監督は片手間にできるものではない
との考えに至り、監督業を10年間封印していた。
それが『宵闇真珠』でドイルと会い、「お前が監督するなら
カメラは任せろ」と言われ、本作に踏み切ったとされる。そ
こに見事なスタッフとキャストが集まったものだ。因に河本
は監督の旧友で『さくらな人たち』に主演していた。
そんな本作のテーマは、言うまでもなく自然破壊への警告と
資本主義社会への批判だが、それを単純明快に言い切ってい
ることも本作の良さと言えるだろう。最近のチャラチャラし
た映画には逆行する作品だが、見る価値は最上級だ。
公開は9月13日より、東京は新宿武蔵野館他にて全国ロード
ショウとなる。

この週は他に
『左様なら』
(今年6月に『暁闇』と『無限ファンデーション』を紹介し
ている「MOOSIC LAB 2018」の長編部門に出品された作品。
中学校から一緒だった同級生に先立たれた女子高生が、その
死で広がる波紋の中に翻弄される。ネット上で展開するイラ
ストレーターのごめんがTwitterで発表した短編漫画を原作
に、2011年からすでに10本以上の短編映画を発表して映画祭
での受賞・入賞も果たしている石橋夕帆監督が長編デビュー
を飾った。思春期の女性の心理としてはかなり微妙なところ
も突いているのだろうし、その点で評価されるのは納得もす
る。しかし結末に近いところで主人公の死を連想されるシー
ンの登場には、原作もそうなのかもしれないが、個人的に少
し迷いが生じた。その経緯も明確ではなく、ただ雰囲気的に
このシーンが挿入されたのでは、少し考え方が甘いようにも
感じてしまった。出演は芋生悠と祷キララ。公開は9月6日
より、東京はUPLINK吉祥寺他で全国順次ロードショウ。)

『永遠の門 ゴッホの見た未來』“At Eternity's Gate”
(主演のウィレム・デフォーがヴェネチア国際映画祭の男優
賞を受賞し、オスカー候補にもなった19世紀末に生きた画家
の伝記映画。オランダ生まれの画家がパリに移った頃から、
共同生活も送るポール・ゴーギャンとの出会いやアルル時代
などの晩年が描かれる。共演は2018年6月17日題名紹介『ス
ターリンの葬送狂騒曲』などのルパート・フレンド、2018年
4月15日題名紹介『サバービコン』などのオスカー・アイザ

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08月04日(日)
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