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On the Production
by 井口健二
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■風をつかまえた少年、ジョナサン(暁闇、トールキン旅のはじまり、JKエレジー、グッド・ヴァイブレーションズ)、「フランス映画祭2019」
描いた作品。
主人公のジョナサンは設計事務所で才能を発揮する建築士。
しかし彼には定時に出社して定時に退社しなければならない
事情がある。その事情は雇い主も了承のはずだったが、新た
なプロジェクトに彼の才能が不可欠となる。しかし彼の事情
は変えられなかった。
その事情とは彼が2つの人格の持ち主であること。そのもう
一つの人格であるジョンはかなり自由人のようだが、彼らは
ヴィデオメッセージを通じてやり取りをし、互いにその日の
出来事を伝え合うことで日々の暮らしに支障が生じないよう
にしていた。
そして2つの人格は耳の裏に取り付けられた装置によって所
定の時間ごとに切り替えられ、昼を生きるジョナサンと夜を
生きるジョンとして、それぞれの人格が独立して生きて行け
るようになっていた…。ジョナサンがジョンの行動に疑いを
持つまでは。
共演は、2016年7月31日題名紹介『高慢と偏見とゾンビ』な
どのスーキー・ウォーターハウスと、2019年1月紹介『マイ
・ブックショップ』などのパトリシア・クラークソン。他に
2016年11月13日題名紹介『マグニフィセント・セブン』など
のマット・ボマーらが脇を固めている。
脚本と監督は、プリンストン大学を卒業後にホイットニー美
術館の研究プログラムに選ばれ、そこで制作した初の映像作
品が多くの映画祭での上映を勝ち取り、さらにアメリカン・
フィルム・インスティチュート(AFI)で学んだというビル
・オリヴァの長編デビュー作。
なお脚本は、グレゴリー・デイヴィス、ピーター・ニコウィ
ッツとの共同となっている。
多重人格の話は、2014年8月紹介『Frankie & Alice』など
いろいろな作品があるが、本作ではある種の科学的な対応も
採られていて、SFの範疇でも見ることができる。実際に本
作は、2018年のTrieste Science+Fiction FestivalにてBest
First Feature Filmの作品賞を受賞しているものだ。
そしてこの作品は多重人格のテーマに新たな側面を与えるも
のとも言える。さらに映画の内容では、互いの人格の心理面
での葛藤も巧みに描かれており、僕はその方にも見応えを感
じていた。そこには太陽に憧れるジョンと星空を見られない
ジョナサンなど、心に響く表現もあった。
ところがその一方で本作の宣伝チラシでは、「(人格が)午前
7時と午後7時に切り替わる」との記載があり、映画の中で
もそういう台詞があったのだが。それでは睡眠時間が考慮さ
れていないという疑問が生じた。
その睡眠時間は、映画の中では午前3時から午前7時までの
4時間とされており、そうであるならジョンからジョナサン
への切り替えのタイミングはその中間点の午前5時、その逆
は午後5時であるはずなのだ。
そうでないとジョンの活動時間だけが4時間短くなってしま
い、不公平になる。これは単純に24時間制の17時と午後7時
の読み違えとも取れるが、口煩いSF映画ファンとしては気
になってしまうものだった。
公開は6月21日より、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『暁闇』
(音楽と映像の融合が主題の「MOOSIC LAB 2018」長編部門
にて準グランプリに輝いた阿部はりか監督のデビュー作。自
分自身の居場所を持てない中学生の男女が、ネット配信でカ
ルト的な人気を誇るLOWPOPLTD.の音楽を切っ掛けとして廃ビ
ルの屋上に集うようになるが…。閉塞感の横溢する物語が展
開される。出演は2018年7月紹介『教誨師』などの青木柚、
2018年4月22日題名紹介『明日にかける橋』などの越後はる
香、モデルで舞台でも活躍する中尾有伽。他に2018年11月紹
介『デッドエンドの思い出』などの若杉凩、2012年11月紹介
『ユダ』などの水橋研二らが脇を固めている。映画に登場す
る屋上が見事で、たまたま試写会場がロケ地の近くだったの
で帰りに確認しようかと思ったが、実はそこにはないとのこ
と。その情報に映画の主人公と同じ感覚に襲われた。そんな
異空間に紛れたような感覚の作品だ。公開は7月20日より、

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06月09日(日)
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