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On the Production
by 井口健二
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■マイル22、クマ・エロヒーム(ねことじいちゃん、世界でいちばん悲しい、バジュランギ、ホイットニー、あまのがわ、ひかりの歌、ともしび)
『クマ・エロヒーム』
2016年に『阿呆の舞』という10分の短編作品を発表している
日本大学芸術学部映画学科卒業の坂田貴大監督による76分の
劇場デビュー作。
映画の巻頭には旧約聖書創世記第22章16−17節が引用され、
我が子イサクを生け贄に捧げる父親アブラハムの行動が説か
れる。そしてドラマの始りでは、ベビーバギーを押してきた
男性が、乗せていた赤ん坊の人形を海に投げ込む。そんな衝
撃的な場面から物語はスタートする。
時代は約100年後の2117年。舞台は映画の中ではあまり明確
でないが、地球以外の惑星での物語。その星では宗教団体の
力が強いらしく、住民は皆その指示に従って暮らしている。
そして主人公の夫婦は団体の指示によって選ばれたカップル
で、妊娠と出産が期待されていた。
ところが結婚から15年が経っても妻に妊娠の兆候は表れず、
夫には焦りの色が見える。そして夫は子供の出来ない原因が
自分にあると気付くが…。
主演は、2015年の高橋伴明監督『赤い玉』で主人公の相手役
を演じて話題になり、2018年5月13日題名紹介『菊とギロチ
ン』などにも出演の村上由規乃と、2017年『youth』などの
古矢航之介。いずれもインディペンデンス系映画の出演者の
ようだ。
題名はヘブライ語で、「神よ、立ちあがってください!」と
いう意味の旧約聖書詩編の言葉だそうで、宗教テーマの作品
と言えるのかな? ただし物語の展開は、宗教には批判的な
感じが受け取れるものになっている。それはキリスト教だけ
でなく、宗教全般を否定している感じだ。
一方、チラシには「SF叙事詩」という文言もあって、そう
いう志向と取れるが、SFファンの目線からするともう少し
何かが欲しくなる。でもまあタルコフスキー監督の『ストー
カー』もSFと認められているのだから、これでも良いとは
言えるものではあるが。
そんな中で最初の赤ん坊の人形の件には、1972年製作のSF
映画『赤ちゃんよ永遠に』なども思い出したが、その点も踏
まえての作品なのかな? 出産が禁じられている世界を描い
たその作品に対して本作が裏返しの設定なのも、僕には面白
く感じられた。
ただし本作では少子高齢化とされていても子供がいない訳で
はなく、状況はSF的と言えるほど切迫したものではない。
つまり状況が社会一般的なものではなく、個人レヴェルとい
うことではSFとは捉え難い。それでもSFと呼ばれたいの
なら、さらに一押し何かが欲しいと感じるものだ。
因に上記の『阿呆の舞』は、監視社会のディストピアを描い
ていたそうで、SF志向の監督であることには期待したい。
公開は12月22日より、東京は池袋シネマ・ロサにて、1週間
限定のレイトショウとなる。
この週は他に
『ねことじいちゃん』
(名古屋を拠点にイラストレーターとして活動中のねこまき
(ミューズワーク)原作のコミックエッセイを、動物写真家・
岩合光昭の初監督で映画化した作品。小さな島でひとり暮ら
しの70歳の老人と飼い猫の姿を、周囲の人たちとの交流と共
に描く。出演は主人公を落語家の立川志の輔が演じる他、柴
咲コウ、柄本佑、銀粉蝶、山中崇、葉山奨之、中村鴈治郎、
田中裕子、小林薫らが脇を固めている。老人のひとり暮らし
を心配する息子が都会に連れて行こうとしたり、島の診療所
の若い医師と、何故か老人ばかりの島にカフェを開く女性な
ど…。まあ有り体と言えばあまりに有り体な物語が展開され
る。そこには過疎問題や老人の独居なども描かれるが、問題
意識などはあまり感じられず、そんなことで良いという作品
なのだろう。ただ猫の生態を写したシーンは流石という感じ
で、それが売り物とも言える。公開は2019年2月22日より、
東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)
『世界でいちばん悲しいオーディション』
(BiSH BiS GANG PARADEなどのアイドルグループが所属する
音楽会社WACKが、年1回開催する合宿オーディションの
模様を記録したドキュメンタリー。その合宿では、毎朝のマ
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12月09日(日)
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