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On the Production
by 井口健二
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■第31回東京国際映画祭<コンペティション部門>
のだが、期待して観に行ったらかなり頭を抱えてしまった。
特にジャンルに関してはどこがそうなのかも理解できなかっ
たもので、一応そのテリトリーにいる者としては対処に困っ
たものだ。内容は人魚かも知れない女性が登場し、彼女を食
い物にする3人の夫との関係を描いたものだが、自分の理解
力が乏しいのか、これがファンタシーとはどうしても思えな
かった。それに風刺性も、過激と言えば過激な映像に隠れて
読み取ることができないものだった。内容に合わせた演技の
主演女優が頑張っていたことは認めるが…。

『アマンダ』“Amanda”
今ヨーロッパで起きている新たな悲劇を題材にしたフランス
映画。この題材自体は先に描かれているのかもしてないが、
その当事者をここまで描き切った作品は初めてのように思え
る。特に悲劇の後で泣くことさえ忘れたような少女の姿が痛
切に心に刻まれた。また彼女を困難の中で支えようとする若
者の姿も素晴らしい。状況の異なる日本では、海外から頻繁
に報道されるこの悲劇を真に理解することは難しいと思って
いたが、この作品を観ているとその心情を共有することがで
きる気持ちにもなった。もちろんこれで悲劇が終る訳ではな
いし、今後も繰り返されてしまうかもしれないが、この気持
ちを理解した上で今後の報道に接したいとも思ったものだ。
正に今観るべき映画と言える作品だ。

『テルアビブ・オン・ファイア』“Tel Aviv Al HaEsh”
パレスチナの女スパイがイスラエルの将校との恋に落ちると
いう展開の昼メロドラマの撮影現場を背景に、そのドラマで
ヘブライ語の台詞の言い回しなどの監修を行うことになった
プロデューサーの甥が、仕事熱心さ故にいろいろなトラブル
を引き起こす。まあコメディとしては有り勝ちな展開のよう
にも思えるが、何せ舞台がイスラエル/パレスチナというこ
とで政治的な背景などが巧みに描かれて行く。それは部外者
には判り難いところもありはするのだが、観ていると何とな
く納得できるように作られているのも見事と思える作品だ。
それに落ちの付け方が、吉本新喜劇張りに強引なものなのだ
けれど、それが映画と劇中劇のドラマの両方で巧みに収まる
のも感心する作品だった。

『シレンズ・コール』“Son Çıkış”
イスタンブール市街地の再開発工事に関っていた主人公が、
以前に知り合いだった女性から南部で運営されているオーガ
ニックなコミュニティを教えられ、嫌気の差していた勤務先
を退職してそこに向おうとする。ところが退職と同時に支給
されていた乗用車は返却、クレジットカードも停止され、そ
れでも突き進もうとする主人公はいろいろなトラブルに巻き
込まれる。基調はコメディで主人公を襲うトラブルにはかな
り強烈なものも含まれる。ここは少しスラップスティックな
感覚もあって楽しめた。ただし前半の面白さに比べると後半
が平凡かな。特に結末は主人公のそこまでの有りようからす
ると、これではあまりに普通な気がして、ここにはもっと過
激な捻りの欲しい感じがした。

『ザ・リバー』“Ozen”
文明から隔絶された辺境の地に暮らす5人兄弟の日々を描い
たカザフスタンの作品。両親はいるがあまり関っては来ず。
幼い末弟もいる兄弟は長男を中心に家庭内のいろいろな仕事
を分担し、また遊びも5人で一緒だった。ところがそこに都
会育ちの少年がきて、兄弟の関係性が崩れ始める。そしてあ
る事件が起きる…。時代背景などが今一つ不明で、物語には
何か寓意があるようにも感じられるが、それも明確にはなら
ない。ただ砂丘や岩山や急流の大河も含む風景は、何となく
ファンタスティックで、その辺の描写は面白く感じられた。
風景には2014年<コンペティション部門>で上映『草原の実
験』も思い出したが、文明に対する批判もあるのかな。その
辺も理解できなかった。

『氷の季節』“Før frosten”
19世紀デンマーク、その農耕地帯を舞台にした人間ドラマ。
物語の中心は父親と娘、それに甥2人の4人暮らしの一家。

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11月03日(土)
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