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On the Production
by 井口健二
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■第30回東京国際映画祭<コンペティション部門>
コメディ・フランセーズ所属の俳優として映画出演にも実績
のあるギヨーム・ガリエンヌによる映画監督第2作。自伝的
な第1作では主演も張ったが、本作では脚本と演出に専念し
た。それでも女優を目指すヒロインの姿には自らの体験も反
映されていそうだ。その本作のヒロインは、正直に言ってか
なり嫌な感じの女性で、しかもアルコール依存症から抜け出
せないでいる。それがカウンセリングにも参加してようやく
脱却できそうになるのだが…。そこからの展開が唖然とする
ほど見事だった。主演のアデリーヌ・デルミーは、彼女自身
が売り出し中の新人のようだが、女性が女優になる瞬間を見
事に捉えた作品でもある。実は「日本映画スプラッシュ」の
作品に同旨のものがあったが、狙いは違ったようだ。
『ナポリ、輝きの陰で』“Il Cratere”
ナポリ郊外のクレーターと呼ばれる低所得者層の暮らす町を
舞台に、実際にその町に暮らす父と娘を主演に起用し、父親
には脚本にも参加させたというセミドキュメンタリー作品。
主人公の父親は露天商を営んでいるが、娘に歌の才能を見出
し、作曲家の新作を買い取って一攫千金の芸能界を目指そう
とする。しかし娘との間に確執が生じ始め…。日本でもあり
そうな話だが、後半の父親の行動の意味が判らず、その辺の
判断に迷うところがあった。それにドキュメンタリー出身の
監督の発言によると「被写体に密着できた」ということのよ
うだが、父親の顔のアップが多く大画面では圧倒され過ぎる
感じもした。一方、娘に関しては2度披露される歌声の微妙
なアレンジの違いなどが見事だった。
『さようなら、ニック』“Forget About Nick”
2013年9月紹介『ハンナ・アーレント』などのマルガレーテ
・フォン・トロッタ監督による新作は、ニューヨークを舞台
にした女性2人が主人公の都会派コメディ。その1人はデザ
イナーに転身を図っている元ファッションモデル。その女性
が夫から突然の別れを告げられ、しかも彼女の暮らすアパー
トに前妻の女性が乗り込んでくる。こうして趣味も暮らしぶ
りも全く違う2人の女性の共同生活が始まるが…。さらに前
妻の娘と幼い孫、弁護士や不動産屋も加わってとんでもない
騒動が巻き起こる。2013年作とは打って変わった巧みなコメ
ディだが、男性に頼らない女性が主人公と言うのは共通して
いるのかな。社会派からコメディまで、幅広い監督の才能は
充分に納得できた。
『ペット安楽死請負人』“Armomurhaaja”
家で飼えなくなったペットを飼い主に代って処分することを
副業にしている機械工を主人公にした作品。現在自分がペッ
トを飼っている身としては許しがたい作品だが、自分の幼い
頃の記憶に照らしてこういうことを考える人間もいるのだな
とは思ってしまう。ただ物語にはその他の要素も絡まってく
るが、最終的に主人公を贖罪のような形で終らせるのは、他
の社会的なテーマのようなものの意味を消してしまう感じも
した。因に監督のテマール・ニッキは生家が養豚業を営んで
いるそうで、その辺のことも背景にあるのかな。だとすると
ちょっと違う見方にもなってしまいそうだ。主演のマッティ
・オンニスマーはフィンランドでは名脇役として知られ、本
作が初主演だそうだ。
『ザ・ホーム−父が死んだ』“Ev”
父親が死去してその弔いに帰ってきた一人娘。娘は泣きなが
らも葬儀の準備を進めるが、父親は遺言状で遺体を医科大学
に献体すると記していた。そこで医大の職員が遺体の引き取
りにやって来るが…。娘は亡き父の遺体がバラバラにされる
ことを認められなかった。そこで遺言の有効性と遺族の意向
を巡ってのすったもんだが巻き起こる。イランのアスガー・
ユセフィヌジャド監督の作品で、何かというとコーランやア
ッラーの教えが引かれるなど宗教の違いなどいろいろなこと
があるのだろうなあと思って観ていたら、後半に意外な展開
が待ち受けていた。家族関係が最初に判り難く戸惑うが、娘
役のモハデセ・ヘイラトの表情の変化など、もう一度観直し
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11月04日(土)
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