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On the Production
by 井口健二
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■第25回フランス映画祭、十年 Ten Years、ダイバージェントFINAL
させようと偽物のテロ攻撃を仕掛ける政治団体の話。2本目
は「冬のセミ」。街で集めたいろいろなものを標本にしてい
る男女の話。それらが消されてしまう現実があるようだ。
3本目は「方言」。香港の公用語だった広東語が禁止され、
その中での普通語(北京語?)が話せないタクシー運転手の
話。そんな彼にはその他にもいろいろな規制の網がかけられ
て行く。
4本目は「焼身自殺者」。早朝のイギリス領事館の前で起き
た事件。目撃者はおらず、身元も不明だったが…。5本目は
「地元産の卵」。香港で最後の養鶏場が閉鎖され、少年団は
書店で地元という言葉の入った書籍を摘発する。
中国映画を観続けて来ていると、何となくこれらの作品の背
景にあるものは理解できるような気がする。それは紅衛兵で
あったり、文化大革命であったり…。それがまた繰り返され
ようとしているのかな。
現実がどうであれ、香港の人々にそれに対する危機感のある
ことは、明確に理解できる物語たちだ。その危機感はこの作
品が本国で上映禁止になったことでも裏付けられる。現実に
言葉狩りは起きているのだから。
その言葉狩りを描いた5本目で、その結末に登場する書籍に
は日本人として「オォ!」という気分にもなった。その本に
「地元」という言葉があったとは思えないが、禁書にされる
理由は沢山ありそうだ。
監督は、1本目がクォック・ジョン、2本目がウォン・フェ
イハン、3本目はジェヴォンズ・アウ、4本目がキウィ・チ
ョウ、5本目はン・ガーリョン。アウが2010年3月紹介『冷
たい雨に撃て、約束の銃弾を』の脚本で知られる他は、ほぼ
無名の人たちのようだ。
また出演者も、5本目に2013年12月紹介『大捜査の女』など
のリウ・カイチーが出ている他は、ノースターの配役となっ
ている。その作品が大ヒットを記録したのだ。正にネガティ
ヴキャンペーンが裏目に出たという作品だ。
公開は7月22日より、東京は新宿K's cimema他にて、全国
順次ロードショウとなる。
香港の近未来の話ではあるが、アメリカや日本もこうならな
いとは限らない。そんな危機感も覚える作品だ。

『ダイバージェントFINAL』“Allegiant”
ヴェロニカ・ロス原作、ヤングアダルト小説シリーズの映画
化で、2014年、2015年公開作に続く第3作。
実は前2作も試写は観ているがここでの紹介はしなかった。
それは第1作では、アクション映画としては面白かったが、
SF映画として物語の世界観が曖昧で、全体像を掴みかねた
もの。その世界観が第2作ではさらに曖昧な感じだった。そ
れが第3作にしてようやく明らかになった。
物語の舞台は世界崩壊後のシカゴ・シティ。高い壁に囲われ
たその街はいくつかの派閥に分けられた住民によって管理さ
れ、子供はある年齢になるとその派閥に分類される。そして
生涯をその派閥のために生きることになっていた。
そんな中で主人公はどの派閥にも属さない異端者と分類され
てしまう。そこから主人公による街の成立の意味を探る旅が
始まるのだが…、というのが第1作の大体の物語。第2作で
はその旅で新たな派閥が見つかるが…。
この種のディストピア物では、基本的にその世界の成立に至
る謎解きがテーマになるが、第1作、第2作では、主人公た
ちの周囲の話ばかりで、基本のテーマに立ち入ることがなか
った。それが僕には不満だった。
でも考えてみれば、現実の世界はそんなもので、僕らはこの
世界の成り立ちなど気にもせず暮らしている訳で、さらには
最近の若者の政治への無関心などが、この作品には反映され
ていたのかもしれない。
それが第3作では一気にディストピアの背後にあったものが
明らかにされる。それで僕としてはようやくほっとできたも
ので、そこに至る冒険や、そこでの主人公たちの立ち振る舞
いにはやっとSFを感じることもできた。
そのSF感自体は悪いものではないし、壮大な映像も含めて
ようやく観たいものを観ることができた感じもした。出来る
ことならこの部分の伏線を散りばめた第1作、第2作を改め

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05月21日(日)
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