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On the Production
by 井口健二
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■第29回東京国際映画祭<コンペティション部門>
がちゃんと描けたかどうかは疑問だ。
『雪女』
デビュー作の『R-18文学賞vol.3 マンガ肉と僕』が2014年の
「アジアの未来部門」に出品された杉野希妃監督の第3作は
コンペティション部門で上映されることになった。
小泉八雲の原作は、1964年の小林正樹監督『怪談』の中でも
映像化されているが、今回は新解釈も含めて杉野の脚色・主
演で映画化されている。ただまあその新解釈が物語に生きて
いるかというとそれほどでもなく、全体的には物足りなさの
残る作品だった。
今回のコンペティションの日本映画は2作品だが、いずれも
少し軽めな感じの作品で、海外からの骨太の作品にどこまで
対抗できるのだろうか。
『7分間』“7 MINUTI”
フランスでの実話をイタリアに舞台を移してドラマ化した作
品。海外企業による買収が進む伝統ある工場で、買収の条件
とされる労働問題を女性の労組幹部11人が検討する。その条
件は、休憩時間を7分短縮するという些細なものだったが、
それを受け入れることに疑問が呈される。
目先の状況のために未来に残すべきものを差し出すのか…?
極めて大きな問題提起だが、作品中では海外からの移住者な
ど現在のヨーロッパが抱える問題がてんこ盛りで、本質が少
し見え難くなってしまった感じもした。
『12人の怒れる男』の女性版といった感じでもあるが、そこ
に出産までは、いくら何でもやり過ぎだ。
『シェッド・スキン・パパ』“脫皮爸爸”
2006年岸田戯曲賞を受賞した佃典彦作の舞台劇を、香港で映
画化した作品。要介護の老人だった父親がある日突然脱皮し
て若返る。その現象は繰り返され、どんどん若返って行く中
で、父親の生涯や主人公である息子の過去などが問い直され
て行く。
単純に若返りかと思っていると、途中でかなり幻想的な展開
になる。全体的なトーンが統一されているから観ている間は
判らないのだが、観終えてちょっと飛躍ぶりが気になった。
舞台だとそれはそれで押し通してしまえるのだろうが、映画
でこの展開は違和感になる。
監督が舞台演出家でもあるそうで、ちょっと感覚が違った。
『ブルーム・オヴ・イエスタディ』
“Die Blumen von Gestern”
ドイツのホロコースト研究所を舞台に、ナチスの将校を祖父
に持つ研究員の許に、アウシュヴィッツで殺害された女性を
祖母に持つ研修者がやってくる。
かなり強烈な設定だが、やってきた研修者の女性がかなりエ
キセントリックで観ていて辟易する。しかも途中でその女性
が感情を爆発させるシーでは、その表現の仕方もあって観客
の複数人が席を立ってしまった。
最後まで観れば主張したいことは理解できるが、途中で観客
を帰らせては、その目的は果たせない。展開の中には謎解き
もあったり、いろいろ工夫はされているのだが。特に前半の
やり過ぎは、何の意図があるのだろうか?
『誕生のゆくえ』“Be Donya Amadann”
登場するのは、過去には評価されたこともあったようだが現
在はスランプ状態の映画監督が家長の一家。その暮らしぶり
も芳しくない家庭で、第2子の誕生を巡って諍いが始まる。
最初は中絶に合意していた妻が疑問を抱き始めたのだ。
切実な問題を描いており、本作がそれを巧みにドラマ化した
作品であることは確かだが、背景となる中東社会が男尊女卑
の蔓延るという認識の許でこのような作品は、後半の展開も
含めて過去に何本も観てきている感じがする。
それ自体が中東社会に対する偏見かも知れないが、ようやく
ここまで来たのなら、さらにその次に進んで行って欲しいも
のだ。この作品はその手前に留まっている感じがする。
『パリ、ピガール広場』“Les Derniers Parisiens”
フランスの首都でも犯罪多発地区とされる場所を舞台にした
ドラマ作品。犯罪者からの立ち直りを模索する弟と、そんな
場所でも真っ当に生きてきた兄との確執が描かれる。
周囲には正当なビザを求めて苦闘する違法入国者なども配さ
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11月04日(金)
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