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On the Production
by 井口健二
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■ミスワイフ、チリの闘い第1部〜第3部、湯を沸かすほどの熱い愛、PK
そこでアメリカは経済制裁を発動し、さらにチリの富裕層に
資金を投入して企業家主導によるストを続発させる。これに
対しチリ国民は、労働組合や地方委員会を作って抵抗して行
くのだが…。
遂に1973年9月11日、CIAとアメリカ海軍の支援を受けた
軍部がクーデターを起こし、首都サンチアゴにある大統領府
を空爆。アジェンデ大統領を死に追いやり、後に悪名を轟か
すピノチェト政権を誕生させる。
本作の第1部、第2部では1973年3月の議会総選挙の模様か
ら取材が開始され、その選挙結果が反大統領派の思惑に反し
たことから起こる6月のクーデター未遂(後にNYタイムズ
がCIAの資金提供を報道)、さらに9月へと進む。
因に第1部の巻頭には、黒無地のタイトルバックに重ねた攻
撃の音響と9月のクーデターでの大統領府空爆の映像が配置
されており、そこへ至る道筋が描かれることが暗示されてい
る。そして第2部はクーデターの模様で終えられる。
斯くしてアジェンデからピノチェトへの政変を描く本作は、
第3部では一転して経済制裁や企業家主導のストライキに挑
む民衆の姿を描き出す。正直に言って僕には前2部は既知の
内容で、第3部からが注目だった。
そこでは交通のストに対して個人のトラックなどを動員して
凌ぐ姿や、新たな物流のルートを開発して物不足に対処する
姿などが描かれる。それは正に民衆主導の革命であり、ソ連
とは異なる社会主義運動の発展が描かれる。
実際にここに描かれる民衆の様子は、社会主義への移行を目
指す大いなる実験とも取れるし、軍部のクーデターという暴
力によるその挫折が、後のソ連崩壊などへの引き鉄になった
とも見えるものだ。
そしてこの軍事クーデターが、2016年6月紹介『コロニア』
に始まり、2012年10月28日付の「第25回東京国際映画祭」で
紹介した『NO』で終るチリの独裁政権を誕生させるのだ。
なお本作には一将校だったピノチェトの姿も登場する。
公開は9月10日より、東京は渋谷ユーロスペース他で、全国
順次ロードショウとなる。

『湯を沸かすほどの熱い愛』
2012年12月紹介『チチを撮りに』の中野量太監督による商業
映画デビュー作で、宮沢りえが2014年『紙の月』以来の主演
を務める作品。
宮沢が扮するのは休業中の風呂屋の女主人。1年前に夫が蒸
発して女手だけでは湯沸しもままならず、止む無く休業状態
になっている。そして彼女には一人娘がいるが、少し優柔不
断な性格で、学校ではいじめに遭っているようだ。
そんな主人公が突然ガンで余命数ヶ月を宣告されてしまう。
そこで主人公は、まず夫の居所を興信所に探させて家に引き
戻し、夫と連れていた幼女を家族にしてしまう。さらに娘に
は独立心を持たせる予習を開始する。
そんな一家にはいくつかルールがあり、それは家族の誕生日
には朝からしゃぶしゃぶだったり、毎年特定の日に届くアシ
ダカガニの礼状は娘が書くことになっていた。そして主人公
は、娘と幼女を連れて静岡に出かけることにするが…。
共演は2016年2月紹介『スキャナー』などの杉咲花。他に、
オダギリジョー、松坂桃李、子役の伊東蒼、2016年5月29日
題名紹介『夢二〜愛のとばしり〜』などの駿河太郎、2015年
4月紹介『Zアイランド』に出演の篠原ゆき子らが脇を固め
ている。
脚本も手掛けた中野監督の作品は、前作もそうだったが少し
捻ったシチュエーションで展開される。しかしそこに描かれ
る内容は普遍的というか誰にでも理解できる物語で、見事に
感動させられるものだ。
特に伏線の敷き方が巧みで、それこそ普通なら見逃してしま
いそうな描写が最後に感動となって甦る。勿論もっと明確に
提示されて感動の引き金になるようなシーンも用意されてい
るが、その他にもいろいろな伏線が活かされていた。
それにしても、題名の最後の文字は、普通こういう流れだと
「恋」かな? でも本作は、宮沢りえが正しく壮絶な「愛」
を家族や周囲に振りまく作品で、その内容には圧倒された。
これこそが愛と言えるものなのだろう。

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07月31日(日)
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