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On the Production
by 井口健二
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■記者会見(アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅)、ペット、 みかんの丘、とうもろこしの島、クズとブスとゲス
無稽な部分もありはするが、ペット好きの目からすると許せ
るというか、納得の物語が展開されている。それがエンター
テインメント性も豊かに描かれた作品だ。
監督は『怪盗グルーの月泥棒』などのクリス・ルノーと、ル
ノー監督の2013年公開『怪盗グルーのミニオン危機一発』で
美術担当のヤロウ・チェニーが共同監督としてクレジット。
脚本は、2011年7月紹介『イースターラビットのキャンディ
工場』などのブライアン・リンチが担当した。
飼い主がいないときのペットの状況や、野犬捕獲員の存在な
ど、僕はこの作品を観ながら1955年のディズニー作品『わん
わん物語』“Lady and the Tramp”を思い出していた。
本作のマックスは野良犬ではないし、レディの存在は希薄で
はあるが、ディズニー作品が当時のペット事情を反映してい
たのなら、本作は正に現代のペット事情を反映していると言
えるだろう。
本作は、『わんわん物語』に対する現代からの回答編という
感じもする作品だ。
公開は8月11日より、全国拡大ロードショウとなる。

『みかんの丘』“მანდარინები”
『とうもろこしの島』“სიმინდის კუნძული”
1991年のソビエト連邦の崩壊により独立国となったグルジア
(現呼称ジョージア)を舞台に、その後に発生した国内の民
族紛争を背景とした2作品。
1本目は収穫期を迎えたみかん農園が舞台。主人公はエスト
ニア人で民族紛争には関っていないが、近隣の同胞は安全の
ため帰国してしまっているようだ。そんな中で果樹はたわわ
に実ったものの、紛争でそれを収穫する人手が足りない。
そこで一方の軍の上官に収穫の応援を頼むのだが…。俄かに
戦線が切迫し、両軍の兵士が入り乱れる状況となる。しかも
目の前で起きた戦闘で、主人公は傷ついた両軍の兵士を救護
してしまう。
因に本作の英題名は“Tangerines”で登場する「みかん」は
日本風の手で皮の剥けるもの。そんなことにも親しみの湧く
作品だが、内容は戦争批判をユーモアも交えて巧みに描いた
もので、映画前半からの伏線も見事な作品だった。
監督は、ジョージア映画アカデミーの代表も務めるザザ・ウ
ルシャゼ。本作は2015年の米アカデミー賞外国語映画部門に
エストニア代表としてノミネートされた。
2本目は川の中州でとうもろこしを育てる老人とその孫娘が
主人公。春先に適当な中州を見つけた老人はその中洲に小屋
を建て、小舟で渡りながら種をまきとうもろこしを育てる。
すれは民族の古くからの習わしだった。
しかしその川は民族紛争を繰り広げる両軍の境界でもあり、
双方の軍隊の兵士たちがちょっかいを出し始める。それでも
黙々と作業を続ける老人と孫娘は遂に収穫の日を迎えること
になるが…。
この作品では、とうもろこしが見事に育って行く様が描かれ
ており、実際に半年を賭けた撮影であることは判断できる。
しかもその後に用意されたシーンには、何か崇高な思いもす
る作品だった。
監督は、ジョージア出身でニューヨークの映画学校にも通た
というギオルギ・オヴァシュヴィリ。本作は2015年の米アカ
デミー賞外国語映画部門にジョージア代表としてノミネート
された。
僕は元々神奈川県西部の生れ育ちなのでみかんの実る様子は
よく判っているし、中学か高校では授業でトウモロコシを育
てたこともある。従ってこの2作品に登場する作物にはどち
らも親しみが湧いたが、特にみかんはそれまでの世話も見え
てくるもので、それと戦争の理不尽さが見事に描かれている
と感じたものだ。
公開は9月17日より、東京は神田神保町の岩波ホール他で、
全国順次ロードショウとなる。

『クズとブスとゲス』
2011年『東京プレイボーイクラブ』という作品で東京フィル
メックス学生審査員賞などを受賞した奥田庸介脚本、監督、
主演による上映時間2時間21分の作品。

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06月26日(日)
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