ID:47635
On the Production
by 井口健二
[459982hit]

■第26回東京国際映画祭《コンペティション部門》
『ルールを曲げろ』“قاعده ی تصادف”
映画祭で審査員特別賞を受賞した作品。製作国イランの国情
を反映しつつ、海外公演の決まったアマチュア劇団に降り掛
かる障害が描かれる。物語の中心は主演女優。しかし彼女の
父親は出演に反対しており、実力者でもある父親はあらゆる
手段で娘の出国の妨害を図る。作品は各シーンがかなりの長
回しでそれは舞台の雰囲気も感じさせる。ところがそれがこ
なし切れていない感じもして、俳優はただセリフを言うだけ
で精一杯な感じ、正直に言ってその辺が僕には不満足な作品
だった。確かにここに描かれている不自由さや女性の立場の
弱さなどがイランの現状なのだろうが…

『ブラインド・デート』“Brma Paemnebi”
こちらも製作国グルジアの国情を反映した作品。主人公は高
校の教師。40代だがいまだに両親と暮らしており、余暇の楽
しみは幼馴染がネットの出会い系で探した女性とのデートが
もっぱらだ。しかし根が真面目な主人公は何時も何も起きな
いままデートは終ってしまう。ところがそんな主人公が既婚
の女性と親しくなったことから状況が変わってくる。それは
彼女の夫が出獄してくるまでの期間限定の付き合いだったは
ずだが…。映画にはホテルやリゾート地、女子サッカーなど
も登場するが、その風景はどこも閑散としたもので、背景に
ある貧しさがにじみ出てくるような作品だった。

『馬々と人間たち』“Hross í oss”
荒天や噴火など厳しいアイスランドの環境を生きる馬たちと
人間の関係を描いた作品。映画は複数のエピソードからなる
オムニバスで描かれており、その中では乗馬中の牝馬に突然
交尾してしまう牡馬の話や、沖合を航行するロシア船まで乗
馬のまま海に入ってウォッカを買いに行く話。さらに吹雪の
中で道に迷い、乗っていた馬の腹を裂いて中に潜り込み生き
延びる話など、温暖な国に暮らしている我々には信じられな
いようなエピソードが綴られている。また最初と最後に置か
れたエピソードが対句になっているなど、構成も巧みな作品
だった。映画祭では最優秀監督賞を受賞した。

『ある理髪師の物語』“Mga Kuwentong Barbero”
1970年代のマルコス独裁政権下のフィリピンを描く。舞台は
山間の村。そこに1軒の散髪屋があり、男性の理髪師は腕も
良く教会の牧師や市長からも信頼されていた。ところがその
理髪師が急死。町民の散髪は隣町まで行かざるを得なくなる
が、実は理髪師の髪は妻が切っており、その妻は夫から手ほ
どきも受けていた。それでも店の再開はためらう彼女だった
が、その店に反乱軍に身を投じた名付け子の青年がやってき
たことから話が動き始める。これに夫の不倫を耐え忍ぶ市長
の妻らの話が絡んで、不正がはびこる独裁政権の実態が明ら
かにされて行く。最優秀女優賞を受賞した作品。

『歌う女たち』“Sarki Söyleyen Kadinlar”
大地震が予知され、避難勧告が出されている孤島を舞台に、
種々の事情でその島から離れることのできない女性たちの姿
を描く。そこには家畜にはびこる疫病や、神の使いとされる
大きな鹿など様々な事象も描かれ、宗教的な要素も描かれて
いる。そしてそこに轟くような幻想的な音楽や、女性たちの
歌声も響き渡る。特に、劇中の要所に流れる不思議な感覚の
劇中の音楽は、それなりに聴き物にもなっていた。ただし、
その音楽に併せて挿入されるナレーションは、宗教的な意味
合いにしても意味不明で、何にか大上段に振りかぶっている
割には監督の意図が掴めなかった。

『ドリンキング・バディーズ』“Drinking Buddies”
今年公開のホラーオムニバス『V/H/Sシンドローム』で一角
を担ったジョー・スワンバーグ監督による作品。ミルウォー
キーのビール醸造所を舞台に、そこで働く女性とその飲み友
達の男性との関係が描かれる。出演は2011年8月紹介『カウ
ボーイ&エイリアン』などのオリヴィア・ワイルド、2011年

[5]続きを読む

10月26日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る