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On the Production
by 井口健二
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■「フランス映画祭2013」
舞台の演出はジャン=フランソワ・シヴァディエ、主演には
フランスのオペラ歌手ナタリー・デセイを迎えて、2人は時
に和気藹々と、また時にせめぎ合いながら舞台を作り上げて
行く。
オリジナルの舞台を観ていないので、そこに新解釈があるの
かどうかは判らないが、シヴァディエが個々の場面の演出を
付けて行く中では、それらのシーンの彼の解釈を聞くことも
でき、演出ノートを見ているような作品になっている。
そしてデセイが見事なソプラノで歌い上げる「椿姫」の数々
の名場面も堪能でき、今後「椿姫」を観る機会があれば参考
にもなる作品だ。それにしても繊細かつ堂々としたデセイの
姿が素晴らしい作品だった。
映画の監督は、同種の作品を数多く手掛けるフィリップ・ベ
ジアが担当。
日本公開は、今秋に予定されている。

『わたしはロランス』“Laurence Anyways”
昨年のカンヌ国際映画祭ある視点部門で上映され、主演のス
ザンヌ・クレマンが最優秀女優賞に輝いた作品。
高校で国語教師を勤めるロランスは、恋人のフレッドに「女
になりたい」と打ち明ける。それを聞き最初は激しく非難す
るフレッドだったが、やがてその思いの強さを知った彼女は
彼の最大の理解者であろうとする。
そこからの10年に亙る2人の葛藤の日々が描かれる。そこに
は周囲の人々の無理解や、偏見、拒否反応などあらゆる障害
が待ち受けていた。
内容はマイノリティの問題など多岐に亙るが、僕自身が男性
で保護者の立場で見ると、本作では女性のフレッドの立場が
注目された。その彼女がランチで切れるシーンにはドキッと
させられたものだ。
ロランス役は『ウェリントン将軍』にも出演のメルヴィル・
プポー。他にナタリー・バイらが共演している。
監督は弱冠23歳にして、「ある視点部門」には2度目の出品
というグザヴィエ・ドラン。特異な題材ではあるが、巧みに
まとめあげていた。
上映時間168分の大作で、日本公開は今秋予定されている。

『短編集』
このプログラムでは、今年は8本が上映される。
「妻の手紙」“Lettres de femme”
ダンボール細工のような人形を用いた15分11秒のアニメーシ
ョン作品。第1次大戦と思われる戦場を舞台に、負傷兵を救
護する衛生兵と家族から届く手紙の儚い物語が綴られる。ま
ったくもって見事な作品だった。
「からっぽの家」“La maison vide”
19分の実写作品。玄関錠の修理にやってきた鍵師の息子が、
父親の修理した錠前の合鍵を手に入れ、留守の邸宅に侵入す
る。いろいろ象徴するものはあるのかもしれないが、僕には
よく判らなかった。
「日本への旅・捕縄術」
“Portraits de voyages Japon: Hôjô Jutsu”
スケッチと簡単なアニメーションで綴られる日本の思い出?
最初は日本の印象記のようだが、途中からあらぬ方向に話が
進んで行く。上映時間は3分だが、それなりに面白く観られ
る作品だった。
「すべてを失う前に」“Avant que de tout perdre”
クレモンフェラン国際短編映画祭で最優秀作品賞など4部門
を受賞した作品。DVに苦しむ妻と2人の子供が、妻の勤務
先だった大型スーパーを舞台に決死の脱出行を敢行する。上
映時間の30分が見事な緊張感で演出された名品。
「次で最後(63年秋)」“Next to last(Automme 63)”
マチュー・アマルリック監督による5分36秒の作品。陽の差
し込む部屋に飾られた絵画の解説に、様々な言語でニュース
などの音声が重ねられる。ただし字幕はフランス語の解説に
対してだけで、他の言語には添えられておらず、多分英語で
は核問題があったと思うが、定かには聞き取れなかった。
「オマール海老の叫び」“Le cri du homard”
今年のセザール賞で短編映画賞を受賞した作品。フランスで
難民生活を送る一家の息子が祖国での戦いに出兵し帰還した
日の出来事。歓待の食事に出されるオマール海老を象徴的に
使って、戦争の恐ろしさが描かれて行く。胸に突き刺さる作
品だった。
「移民収容」“Retention”

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06月20日(木)
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