ID:47635
On the Production
by 井口健二
[460024hit]
■汚れなき祈り、アンナ・カレーニナ、体温、愛アムール、暗闇から手をのばせ、カルテット!、ジャンゴ繋がれざる者、魔女と呼ばれた少女
そんな物語が、今回はキーラ・ナイトレイ主演、2007年12月
紹介『つぐない』や2011年5月紹介『ハンナ』のジョー・ラ
イト監督でリメイクされた。共演はジュード・ロウ、アーロ
ン・テイラー=ジョンスン、それにエミリー・ワトスンら。
また脚本を、1998年『恋に落ちたシェイクスピア』や1985年
『未来世紀ブラジル』などのトム・ストッパードが担当して
いるのも注目だった。
それで本作は、そのストッパードの脚本が素晴らしいと言え
るのかもしれない見事な作劇になっていた。そこではまず物
語が舞台面という設定でスタートし、そこから野外や壮大な
セットに展開されたり、また劇場の客席がスケートリンクに
なってしまったりする。
それはトリッキーではあるが、その場面転換が巧みに物語を
集約し、本作では2時間10分の上映時間の中にトルストイが
描いた物語の全てが印象深く織り込まれていた。これは上記
のモスフィルム版が2時間45分を掛けても僕にはキティらの
物語の印象が残っていなかったのと対称的なものだ。
なお本作は米アカデミー賞で、撮影、衣装デザイン、作曲、
美術の4部門で候補になっているが、脚色賞のノミネートは
逃したようだ。
『体温』
2011年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」に出品
されて高い評価を受け、その後にテキサス・ファンタスティ
ック映画祭やUCLAの映画祭にも正式招待されたという作
品。
本作は、別に嫌いな作品という訳ではないが、上記のように
既に評価もされており、僕が紹介するまでもないと考えてい
た。しかし多少事情が変わったので改めて紹介しておくこと
にする。ただ本作に関しては、鑑賞時に疑問に感じる部分も
あったので、ここではその辺を中心に書くことにしたい。
プレス資料の中では「アンチ『空気人形』」などという文言
も見られて、対抗意識も持って作られた作品なのかもしれな
い。しかし基本的にファンタシーの王道の一つとも言える人
形に魂が宿る設定の2009年6月紹介の作品に対して、本作で
は人形は別段魂を持つようには描かれていない。
むしろ、その人形の持ち主である主人公の精神の方を主題に
描かれている作品と言えるだろう。そして物語では、最初は
女優の演じている人形が、ある状況で本当に人形になってし
まう辺りで、その心情の変化などが象徴的に描かれていると
言えるものだ。
しかしそうであったとして、さらにその状況が逆転した時点
で、人形の姿が再び女優の演技に戻らなかったことが僕には
疑問に感じられた。
つまりこの主人公の心が、生身の人間に巡りあったことで人
形から完全に離れ、再び戻らなかったのだとしたら、これは
それまで人形を愛し続けてきた主人公にしてはあまりに薄情
に感じられたものだ。
もちろん本作では、演出の関係で映画の後半の人形を女優に
演じさせるのが難しい状況はあるのだが、それは撮影の工夫
次第でどうにか出来たのではないか。しかしその工夫をあえ
てしない。このドライさが、現代の若者というようにも感じ
られ、多少暗澹とした気持ちにもなったものだ。
出演は、2012年1月紹介『マイウェイ』などに出演の石崎チ
ャベ太郎とAV女優の桜木凛。脚本と監督は、2010年「ゆう
ばり国際ファンタスティック映画祭」でも『終わらない青』
という作品が高評価だったという緒方貴臣。
プレス資料に掲載の「監督のコメント」によると、人間に対
する幻滅から、人形に擬似的な恋愛感情を継続させる若者を
描きたかったそうだが、それなら余計に最後の人形は女優に
演じさせて欲しかったものだ。
『愛、アムール』“Amour”
ミヒャエル・ハネケ監督が、2010年9月紹介『白いリボン』
に続いて、カンヌ国際映画祭で2作品連続のパルムドールに
輝いた作品。
登場するのは年老いた夫妻。妻は元ピアニストで現役は退い
ているが、教え子らからの信頼は厚いようだ。そんな夫妻は
パリの風格あるアパルトマンに2人で暮らしていた。
ところがある日の食事中、突然妻が硬直し何の反応も示さな
[5]続きを読む
01月30日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る