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On the Production
by 井口健二
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■第25回東京国際映画祭+臨時ニュース
いた。しかもその事実が軍人の息子の兵役検査で発覚する。
物語はフィクションだろうが、このシチュエーションには感
心した。さらにそこからの展開も巧みで、パレスチナ問題や
ユダヤ教の話などが、部外者の我々にも解り易く描かれて行
く。特に軍人の息子の宗教問題や、パレスチナ人の息子の行
動には、思わず納得したりニヤリともさせられた。またパレ
スチナ人の兄の存在には緊張もするし、その兄や軍人である
父親の心理も巧みに描かれていた。対する2人の母親の存在
も見事に描かれていた。パレスチナ問題を描いた作品では、
昨年の『ガザを飛ぶブタ』に続いて秀作に出会えた。

『ニーナ』“Nina”
バカンス中の都会に残ったヒロインをめぐる物語。主人公は
声楽の指導などを行っているが、東洋に関して特別な思いが
あるらしく毛筆の習字を習ったりもしている。その主人公の
思いや、バカンスの人影も少ないローマの風景が、一部は幻
想的な雰囲気も漂わせて描かれる。とは言うものの、この作
品も言葉足らずな感じで、観ていてその制作意図が充分に把
握できなかった。最後に登場する巨大な折り紙などには、そ
れなりのインパクトはあったが。

『ティモール島アタンブア39℃』“Atambua 39⁰Celsius”
2002年にインドネシアの支配を逃れ独立した東ティモール。
その際に住民投票によってインドネシア側に残った町を出て
東ティモールに移った父子と、町に残った母子を巡る物語。
国境の線引きにより分断された家族の話は、韓国だとその状
況も判り易いが、東ティモールの情勢というのが正確には判
らない。現実はパスポートさえあれば自由に往来できるよう
だが、父親は頑なに妻のいるインドネシア側に行こうとしな
い。その意味が理解できなかった。

『ハンナ・アーレント(原題)』“Hannah Arendt”
1961年にイスラエルで行われたアイヒマン裁判を雑誌の依頼
で取材し、アイヒマンに罪はないとの記事を寄稿して物議を
醸したユダヤ人女性作家の姿を描いた作品。哲学者でもあっ
た女流作家は、「命令に従っただけ」というアイヒマンの言
葉に真実を見出し、その哲学的意味を語って行く。映画では
かなり高尚な哲学論議が展開され、それは意味深い作品にな
っている。しかし限られた上映時間でそれは言い尽くされた
ものではなく、限界も感じられた。

『イエロー』“Yellow”
ニューヨークに暮らす女性の現実と幻想を描いた作品。それ
らが精神科医との対話から、ミュージカル、レヴュー、アニ
メーションとの合成に至るまで、様々なヴィジュアルに彩ら
れて豪華絢爛に描かれる。監督は『きみに読む物語』などの
ニック・カサヴェテス。すでに実績のある監督が、かなり実
験的な手法で挑んだ作品で、多分今だからこそできるという
気持ちだったのだろう。元々結論の出る物語ではないが、何
か中途半端な感じも否めなかった。

『フラッシュバックメモリーズ 3D』
ディジュリドゥという管楽器の演奏者で、2009年の交通事故
により記憶障害に陥っている男性の姿を追ったドキュメンタ
リー。そのライヴシーンを3Dで撮影した映像の背景に、過
去の演奏シーンの映像やスナップ写真などが合成され、3D
ヴィジュアル的には面白い。ただ、監督は記者会見で3Dの
意義なども話していたようだが、映画で引用される日記によ
ると監督との打ち合わせは2011年12月、ライブシーンの3D
撮影は2011年10月となっており、矛盾が感じられた。

『天と地の間のどこか』“Araf”
時折吹雪にもなる寒々とした工場地帯とその街道沿いに建つ
カフェを背景に、男女の交流が描かれる。女性は青年の思い
に気づいているが、何故か行きずりの男に惹かれてしまう。
そして思いの遂げられない青年は事件を起こし、女性の運命
も翻弄される。やるせない物語は古典的でもあり、また現代
にも通じるものになっている。ただ寒々とした背景が、最近
の映画では見慣れたものにもなっており、その点では多少の
物足りなさも感じられてしまった。

『NO』“NO”

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10月28日(日)
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