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On the Production
by 井口健二
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■第24回東京国際映画祭(1)
前に上記の日本映画を観て、「コメディは映画祭には難しい
けどこれなら行けるかな」と思っていた矢先の本作で、これ
には負けたと思わされた。オープニングがかなり強烈で、そ
こから一気に物語に引き込む構成も巧みに感じられた。個人
的には観客賞かなとも考えていたが、グランプリも妥当なと
ころだろう。
ただエンドロールに実際の2人の写真が登場して、黒人青年
が実はアラブ系だったことが解かり、フランスの話だしそれ
は当然だなとは思いつつも、映画化で敢えてアフリカ系に変
更したのは…?とは考えてしまった。
『羅針盤は死者の手に』“La brújula la lleva el muerto”
アメリカとの国境地帯を舞台に、違法越境者たちの姿を描い
たかなりシュールなメキシコ映画。
主人公はシカゴに暮らす兄の許を目指している少年。少年は
国境に向かう道で老人が御すラバの牽く荷馬車に乗せて貰う
が、間もなく老人は羅針盤を握ったまま死んでしまう。それ
でも死体を隣りに座らせたまま旅を続ける少年だったが、や
がてその荷馬車に様々な人が乗り込んでくる。
画面には同じ背景が何度も登場して、荷馬車が堂々巡りをし
ていることを伺わせる。それは老人から少年に渡った羅針盤
のせいのようにも思われ、もしかしたら登場人物全員がすで
に死んでいる物語かとも考えさせられた。が、結末を観ると
そうでもないようだ。
乗り込んでくる様々な人の姿がメキシコの現状を象徴してい
るのかも知れないが、その辺は知識がないから判断もできな
かった。また途中で登場する鉄道駅や、開校したばかりの小
学校のエピソードなど、それぞれに何かが象徴されているの
かもしれないが、その寓意も解からない。
物語の全体はシュールという感じで、それは面白く観られた
作品ではあったが、何か理解し切れないもどかしさが残る作
品だった。
『夢遊/スリープウォーカー』“夢遊”
2007年5月紹介『ゴースト・ハウス』などのオキサイド・パ
ン監督による香港=中国製作の3Dホラー作品。ただしプレ
ス向けの上映は2Dで行われた。
主人公は未解決幼児誘拐事件の当事者の女性。その女性が、
寝ている間の自分の行動に疑問を持ち始め、自身が殺人者で
あるかも知れない状況に追い込まれる。一方、彼女が観る夢
の中では、誘拐事件の犯人像も示唆されるが…
映画では、巻頭のタイトルから3Dを伺わせる映像が登場し
て、本編中も3D効果はいろいろ発揮されたと思わせたが、
それは観られていないので評価のしようがない。ただそれを
除くと、お話自体はまあ有り勝ちという感じで、ホラーとし
ての魅力も余り感じられず、パン兄弟としたものがこれでは
どうかという作品だった。
特に、映画の中で語られる夢の設定というか定義が曖昧で、
さらにそのシンクロニティみたいなものがもっとちゃんと描
ければそれなりに面白くなったとも考えられたが、その辺の
描き込みも充分ではない感じがした。
それにホラー映画自体が映画祭のコンペ部門で上映するのに
似合っていない感じだが、1997年に受賞した『CURE』は
ジャパニーズホラーの先駆的な作品だったから、東京国際映
画祭にはそういうイメージもあるのかな。でもあの頃はファ
ンタスティック映画祭も併催されていたものだが。
いずれにしても、映画としてのまとまりも余り感じられない
作品で、3Dで観ればそれなりのものはあったのかも知れな
いが、僕にはその判断もできなかった。
『ホーム』“Yurt”
雄大な自然とそこに忍び寄る開発の影、そんな世界中が直面
している問題を扱ったトルコ映画。
主人公は欝病になり、医師の勧めで休暇を取って故郷の町に
やってくる。しかしそこにはダム建設の計画が進んでおり、
自然が失われようとしていた。そしてトルコ国内では1500の
河川で開発が進められ、今後10年間に400のダムが建設され
るなどの状況が紹介される。
と言っても、主人公は欝病の静養に来ている訳で、別段声高
に自然破壊反対を唱えるようなものではない。その辺は映画
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10月30日(日)
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