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On the Production
by 井口健二
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■犬飼さんちの犬、風吹く良き日、おじいさんと草原の小学校、赤い靴、グッド・ハーブ、ハウスメイド、沈黙の宿命、水曜日のエミリア
その一方で金に踊っている男女もいて、その社会の歪みが容
赦なく若者たちにのしかかる。
高度成長の歪みというのは、多分今の日本も同じようなもの
だと思われるが、今の日本の若者たちに、この映画の主人公
たちのような悲壮感がないのは何故なのだろう。それは目先
のファッションや演出されたブームを、さも若者文化のよう
に見せ掛けて本来の若者の活力を消耗させている日本社会の
あり方のせいなのかも知れない。
しかし、僕自身がこの作品を観ている間は、描かれる青春群
像に違和感を感じていたのだから、それは僕自身も同類と言
われて仕方がない。だからこの映画を観終えて、もう一度昔
の自分に戻りたいとも思ったものだ。
でも観ている間は違和感が拭えなかったことは事実で、その
感覚がやはりこの作品は歴史的価値で観るべきものなのかと
感じてしまう。ただその後の韓流ブームの前にこのような作
品の時代があったことは、知っておくべきものなのだろう。
特にアン・ソンギのその後の活躍を知る人には、彼の若き日
の姿が観られることでも貴重な作品と言えるものだ。
共演は、監督の実弟のイ・ヨンホ、本作で新人賞なども受賞
したキム・ソンチャン。さらに現在もテレビドラマで活躍し
ているユ・ジイン、2005年2月紹介『オオカミの誘惑』など
のキム・ボヨンらが脇を固めている。
兵役など日本とは異なる部分もあるが、全体的には今の日本
の若者にも通じるところの多い作品。しかし日本の若者に共
通した問題意識を持って貰えるか、共感して貰えるかが重要
な作品と言えそうだ。

『おじいさんと草原の小学校』“The First Grader”
ギネスで史上最高齢の小学生と認定されているケニア人男性
の姿を描いた作品。
2003年、ケニア政府は小学校教育の完全無料化を宣言し、国
民全てに教育の機会が与えられると発表した。ただしここで
の「国民全て」とは政治家の使う言葉の綾。しかしその言葉
を真に受けた1人の老人が小学校で勉強をしたいと訪れる。
その老人は、元はケニヤ独立の戦士だったが、戦いに明け暮
れた日々の中で教育を受ける機会を失い、読み書きも全く出
来なかった。そんな老人の希望は、政府から届いた1通の手
紙を自分で読みたいということだった。
しかし、生徒200人に机は50台というくらいに生徒が溢れる
小学校側も、そう簡単に老人を受け入れる訳には行かない。
そのため大人は対象外だと拒み続ける学校に対して、老人は
毎日校門の前に立ち続けた。
そんな日が何日も続き、遂にその熱意に折れた学校側は老人
の入学を認めるのだが、それは周囲にいろいろな波紋を広げ
て行くことになる…。という老人が学校に通い始めるまでの
顛末とその後の出来事、さらに老人が辿ってきた苦難の生涯
などが描かれて行く。
ケニアも多部族からなる国家で、政府は「国民は全てケニア
人」として平等を宣言しているが、独立闘争で宗主国側に付
いた部族や反旗を翻した部族などが共存する政府はなかなか
確執も多いようだ。
そのような恐らくは今も抱えているのであろうケニアの国内
事情や、独立時のイギリスとの関係などが、旧宗主国であっ
たイギリス人のスタッフによって描かれている。それはかな
り勇気の要ることのようにも思えるが、それに果敢に挑んだ
作品でもある。
監督は、2008年6月紹介『ブーリン家の姉妹』のジャスティ
ン・チャドウィック。前作で長編デビューを飾ったばかりの
監督の第2作だが、撮影環境の整った南アフリカではなくケ
ニア現地での撮影に拘わるなど、なかなか骨のある監督のよ
うだ。
脚本は、2006年2月紹介の『ナルニア国物語・第1章』や、
2008年8月紹介『最後の初恋』などのアン・ピーコック。そ
の他の作品ではジョン・ブアマン監督で南アフリカを舞台に
した作品があるなど、アフリカの事情もよく判った脚本家の
ようだ。
主演は、ケニアのテレビ番組で長年人気キャスターを務め、
1984年の『シーナ』にも出演していたというオリヴァ・リト
ンド。他に、2006年7月紹介『パイレーツ・オブ・カリビア

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05月22日(日)
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