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On the Production
by 井口健二
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■八日目の蝉、バビロンの陽光、光のほうへ、星を追う子ども、大木家のたのしい旅行、孫文の義士団+製作ニュース
の影響の下にもあるのだろうが、特に町中では戦争によって
破壊された傷跡も生々しいものだ。
そんな風景を背景に、その中で生きる、生きなければならな
い人々の姿が描かれる。
監督のモハメド・アルダラジーは、バグダッドの出身だがオ
ランダやイギリスで撮影・演出を学び、フセイン政権崩壊後
にイラクに戻って第1作を発表。その作品がサンダンス映画
祭などで評価されてこの作品に繋がったとのことだ。
因にイラクでは、過去40年間に150万人以上が行方不明にな
り、イラク戦争後には300以上の集団墓地から数10万の遺体
が発見され、その数は現在も増え続けているが、その多くは
身元不明の儘とのこと。
そして監督は、このイラクの現状(大量虐殺による身元不明
者の問題)を世界に訴える「イラク・ミッシング・キャンペ
ーン」も映画製作と並行して実施しているそうだ。
なお映画の中に「サダムに電話してくる」という台詞が出て
きて、実は以前からこの言い回しのことは知ってはいたが、
実際に使われるのを観るのは初めてだった。サダムがフセイ
ンのことかどうかは知らないが、世界にはいろいろな言い回
しがあるものだ。
『光のほうへ』“Submarino”
2005年10月に『ディア・ウェンディ』という作品を紹介して
いるトマス・ヴィンターベア監督の最新作。本国デンマーク
のアカデミー賞では、本年度アメリカ・アカデミー賞外国語
映画部門を受賞した“In a Better World”を抑え最多14部
門のノミネートと5部門の受賞を果たしたという作品。
幼い時期をアルコール依存症で育児放棄の母親の許で成長し
た兄弟。その兄の現在は、簡易宿泊所に寝泊まりし、ビール
と身体を鍛えることで日々を過ごしているが、その心には大
きな空洞があるようだ。
その兄は何度も弟に電話をし、その家を訪ねたりもするが、
空洞を埋めることにはならない。そしてある日、町で昔の友
人に呼び止められたことから、少し何かが動き始めるが、そ
れはやがて大きな事件を引き起こすことにもなってしまう。
一方の弟は、幼稚園に通う息子と2人暮らし、少し前に妻を
交通事故で亡くし、ソーシャルワーカーからは子供の行く末
を案じる意見も出されているが、息子には人一倍の思い入れ
があるようだ。そして兄弟は母親の葬儀で再会をするが…
デンマーク特有の手厚い生活保護や麻薬の問題、そんな背景
の中で幼い頃の出来事によってトラウマを持つ兄弟が、それ
でも必死に生きて行こうとしている。少しでも光のあるほう
に向かって。
物語は、ヨナス・T・ベングトソンという作家の長編小説か
ら監督自身が脚色も手掛けている。因に原題からは潜水艦を
思い浮かべるが、この言葉には顔面を水に漬ける水責めの拷
問の意味もあるそうだ。
出演は、本作でデンマーク・アカデミー賞の主演男優賞にノ
ミネートされたヤコブ・セーダー・グレンと、本作で助演男
優賞を受賞したペーター・プラウボー。なおプラウボーは、
2009年11月紹介『誰がため』にも出演していたようだ。
主人公たちに非が全く無いとは言えないが、社会の歪みが生
み出す悲劇。しかしその中にほんの少しだけ希望の光も見え
ている。そんな微かな幸せが描かれている感じの作品だ。
『星を追う子ども』
2004年『雲のむこう、約束の場所』という作品で評価を受け
ているアニメーション作家・新海誠監督による最新作。
父親の形見の神秘的なクリスタルを使う鉱石ラジオ。そこか
ら流れてくる不思議な音楽。そしてその音楽に誘われるよう
主人公の前に現れる青年。それらに誘われて主人公の少女は
謎の地へと旅立つ。
そこにはその謎の地の秘密を明かそうとする軍隊まで装備し
た秘密組織や、その謎の地の入り口を守る巨大な生物も登場
し、やがて少女が訪れる謎の地の美しく驚異的な景観や、そ
こでの冒険が描かれる。
映画の中では、伊邪那岐命が伊邪那美を追って黄泉国に行く
話が解説されたり、書棚には「オルフェウスとエウリュディ
ケ」と記された本の題名が見えるなど、物語のテーマはかな
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03月13日(日)
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