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On the Production
by 井口健二
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■軽蔑、サンクタム、塔の上のラプンツェル・3D、Lily+バンコク遠征記(後編)
示を無視して予備タンクを用意しない息子や、サイクロンの
接近を知りながら避難をしない冒険家の横暴さみたいなもの
から始まって、兎に角、登場人物が馬鹿のし放題。
隘路で無理に引っ張ってエアパイプを切断してしまうダイヴ
ァーや、ダイヴィングをするのにウェットスーツの着用を拒
否する登山家など、およそ現実では有り得ないシーンが連続
するのには、さすがに呆れ果ててしまった。
でまあこんな話がよく映画化されたと思ったが、そこでふと
これは『SAW』などと同じソリッド・シチュエーション・
スリラーなのだと気が付いた。恐らく製作者たちにはアドヴ
ェンチャーを撮るつもりはなく、ただサスペンスを描くこと
だけが目的なのだ。
そう割り切って観れば、冒険家に有るまじき行為も、観客の
苛々感を増加させる効果はあるし、全てはシチュエーション
の完成のために仕方ないとも思えてくるところだ。それに洞
窟内の閉塞感は、閉所恐怖症の人には耐え切れないのではな
いかと思われるほどリアルなものだった。
いずれにしてもこの作品は、3Dカメラに納められたパプア
・ニューギニアの密林や鍾乳洞の内部の景観などを楽しめば
良いものであって、物語自体はあまり深く考えない方が良さ
そうだ。
でもこの風景は、出来たらドキュメンタリーでも観せて貰い
たい感じもしたものだ。
『塔の上のラプンツェル・3D』“Tangled”
先月にも一度紹介した作品だが今回は3Dでの試写が行われ
たので、改めて少しだけ書き足しておく。
まず3Dの効果に関しては、予想通りというか、予想に違わ
ぬ見事な出来映えで、特に主人公の暮らす塔の景観などは見
事だった。それに何と言っても空を飛ぶランターンのファン
タスティックな美しさ、これは何度でも観たくなるほどのも
のだ。
それと3D上映は基本吹き替え版となるようだが、懸念した
中川翔子の声優は違和感もなく気になるところもなかった。
それに小此木真理が担当した歌との繋がりもスムースで、そ
れも心配したようなものではなかった。
それに剣幸が担当した魔女の声も、こちらは歌も含めて堂々
としたもので、特に日本語の駄じゃれを含んだ歌詞も丁寧に
歌いこなされているのは感心した。まあディズニーの吹き替
えはいつもながら見事なものというところだ。
マンディ・モーアやドナ・マーフィの声が聞けないのは残念
ではあるが、字幕なしの自然な3D映像を楽しみたいならそ
れは我慢しなければいけないところだろう。それにいろいろ
なヴァージョンを観るため何度か映画館に通う価値はありそ
うな作品だ。
『Lily』“Lily”
アメリカで映画を学び脚本家として実績を挙げつつある中島
央監督が、アメリカを舞台にアメリカ人キャストを使って英
語の台詞により完成させた長編デビュー作。
主人公は5年前に華々しくデビューしたものの、その後はス
ランプに陥って第2作が書けなくなった脚本家。しかし彼に
はそんな境遇でも支えてくれる女性がいて、そのある意味安
定した生活が彼の創作意欲を削いでいるようにも見える。
そして彼の脚本を映画会社に売り込むエージェントからは最
後通牒を突き付けられ、切羽詰った主人公は彼女との仲を精
算することも考え始めるが…。そんな主人公の生活と彼が書
き進める脚本の世界とが交錯し始める。
スランプに陥った脚本家の姿というと、2008年5月に紹介し
たフェデリコ・フェリーニ監督による1963年の名作『8½』
や、2003年5月紹介『アダプテーション』など数々の作品が
あるが、本作はその中でも最も私的な感じでその苦悩が描か
れている。
それは僕のような物書きの端くれにも容易に理解できるもの
であり、その意味では世の中全ての物書きの端くれに共感を
呼ぶ作品だろう。でもまあそれがどれほどの観客層なのかは
判らないが…。
しかし、監督本人も多分ごく私的な思いで作り上げた作品で
あろうし、それはそれで良いのではないかなとも思える作品
だ。
因に作品は、2007年に発表された同名の短編から発展された
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02月27日(日)
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