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On the Production
by 井口健二
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■第23回東京国際映画祭<コンペティション部門>
戦地に転属されてほぼ全員が戦死。最後まで内地に残って終
戦を迎えたのは6人だけだったという。そんなくじ運だけで
生き残った新藤監督が、同期兵への思いも込めて描いた作品
だ。
物語の最初の舞台は奈良の天理教本部。その宿舎の掃除を終
えた時、100人の内の60人が上官のくじ引きでフィリピンへ
向かうことになる。そして主人公は、戦地に向かう兵士から
1枚のハガキを手渡される。
そのハガキは故郷の妻からのもので、そこには短いけれど愛
情のこもった文面が記されていた。そして兵士は、「自分は
多分戦死するから、もしお前が生き残ったら、故郷に行って
そのハガキは観たと伝えてくれ。」と託される。
こうしてハガキを託された主人公だったが、そのハガキの送
り主の妻や主人公自身にも、さらなる過酷な運命が待ち構え
ていた。
出演は、豊川悦司、大竹しのぶ、六平直政。その周囲を大杉
蓮、柄本明、倍賞美津子らが固めている。映画はユーモアも
交えて描かれているが、戦争がもたらす悲劇を静かなタッチ
で描き出している。
『そして、地に平和を』“Et in terra pax”(イタリア映
画)
ローマ近郊の町を舞台に、出所してきたばかりの男と、若い
男性の3人組、大学に通いながら学資を稼ぐためにカジノで
働いている女性。そんな同じ町に暮らしながら、それまでは
顔も知らなかった男女が、ある切っ掛けから接近し事件を起
こして行く。
出所してきた男は仕事もなく、最初は断っていたドラッグの
売人を引き受ける。その男から麻薬を買った3人組。そして
3人はちょっとした弾みで女性に手を出し、その事件で警察
が動き出す。
こうして街角に目立ち始めた警官の姿は、ドラッグの売人た
ちにはやっかいだった。そこで住民たちは独自に犯人捜しを
始めるのだが、そこにもちょっとした問題が絡んでくる。こ
うして事態は八方塞がりの状態になるが…
映画は随所に複数の男女による話し合いのシーンが長廻しで
挿入され、それはそのシナリオや演出だけでも大変だったと
思わせる。だがそんな台詞満載の物語が、後半では一転して
アクション中心の展開となる。
その展開は、最初はかなり強引なようにも感じられたが、観
終ってみればそれなりのバランスで描かれていたようで、特
にクライマックスに至る経緯や、クライマックスでの映像は
鮮烈だった。
脚本と監督は、マッテオ・ポトルーニョとダニエレ・コルッ
チーニの共同で行われているが、2人はれぞれ大学で映画史
と批評研究で学位を取ったという評論家。そんな2人がヴィ
ジュアルアートと音楽関係で経験を積んだ上での、長編監督
第1作となっている。
因に監督たちは、混沌とした現代社会の中で生きる人々の心
理を描きたかったそうだ。
『サラの鍵』“Elle s'appelait Sarah”(フランス映画)
タチアナ・ド・ロネによる同名の原作の映画化。
1942年7月16日−17日に、ドイツ占領下のパリで起きたフラ
ンス警察によるユダヤ人迫害の悲劇。そこに隠された謎を、
アメリカ出身だがフランスに在住している女性ジャーナリス
トが追跡する。
その日、パリのユダヤ人はフランス警察によって老若男女を
問わず一斉検挙され、ヴェルディヴの屋内競技場にすし詰め
状態で留置される。そこではトイレも閉鎖され、食事は疎か
水もほとんど与えられなかった。
そのユダヤ人が去った後のアパルトマンに、主人公の夫の父
親の一家は引っ越してきた。そこに隠された悲劇も知らず。
そして主人公の追跡は、ヴェルディヴに連れ去られた1人の
ユダヤ人少女の数奇な運命をあぶり出して行く。
その時のヴェルディヴの記録は唯1枚の俯瞰写真以外ほとん
ど残っていないのだそうだ。それは何でも記録したナチスの
やり方にそぐわないが、実はそれがフランス警察によって独
自に行われたことだから…という台詞には、何よりこの悲劇
の重さが感じられた。
そして映画では、現代と過去とを巧みに交錯させて、その悲
劇の有り様を見事に再構築して行く。ホロコーストはアウシ
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10月24日(日)
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