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On the Production
by 井口健二
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■死刑台のエレベーター×2、ブロンド少女は過激に美しく、フローズン、みつばちハッチ、シャングリラ、インセプション+製作ニュース
かと思われる物語が展開する。しかも物語はダイジェストと
いう感じではなく、これは見事な作品だ。
原作はポルトガルの文豪エサ・デ・ケイロスが1873年に発表
した短編。この原作からオリヴェイラ監督自身が舞台を少し
現代に移して脚色しているが、原作の言葉は一言一句改変し
ていないのだそうで、それも見事な作品と言えそうだ。
さらに、撮影は2008年11月下旬に開始されて、ほぼ2カ月後
のベルリン映画祭に完成品が出品されたとのこと、100歳の
監督にしてその驚異的なスピードも賞賛の的になっている。
出演は主人公をオリヴェイラ監督の実の孫が演じている他、
監督の作品に常連の俳優たちで固められているが、主人公を
惑わすブロンド少女役には、ほとんど無名の新人女優が起用
されているようだ。
なお、本作の公開は、本国では1本立てで興行されてヒット
したとのことだが、日本では、オリヴェイラ監督が敬愛する
ジャン・リュック・ゴダール監督による1958年の短編『シャ
ルロットとジュール』(Charlotte et son Jules)が併映さ
れる。14分の作品だが、こちらもいろいろ含蓄があって面白
かった。

『フローズン』“Frozen”
2006年3月紹介『トランスアメリカ』で息子役を演じていた
ケヴィン・ゼガーズと、『X−メン』シリーズにアイスマン
役で出演のショーン・アシュモア、それにテレビやインディ
ペンデス作品などに出演している女優エマ・ベルの共演で、
スキー客を襲う恐怖を描いた作品。
谷間に架かるチェアリフトが停止。そこは地上からかなりの
高さがあり、しかも週末だけ営業されるスキー場のナイトス
キーで、日曜日の最後にリフトに乗った主人公たちには、次
の金曜日の営業再開まで、助けの訪れる可能性はほとんどな
かった。
という、究極のシチュエーションで繰り広げられるサヴァイ
ヴァル・ストーリー。
昨年7月紹介の『ブラック・ウォーター』も、クロコダイル
のいる入り江でマングローブの樹上に取り残される、という
究極のサヴァイヴァルだったが、本作もそれに負けず劣らず
といった感じの作品だ。
しかも、オーストラリアでクロコダイルのいる入り江など、
行く方がそれなりの覚悟を決めているべきだと思われるが、
スキー場のリフトではいつ誰が遭遇しないとも限らない。そ
んな身近にある恐怖が描かれているとも言える。
物語は、幼馴染みの男性2人と、その一方のガールフレンド
の計3人が主人公。彼らは週末のみ営業のスキー場を小旅行
で訪れ、女の魅力でリフト券を手に入れたり、適当に遊んで
いたが、吹雪が来るので早仕舞するというリフトに無理矢理
最後に乗り込んで行く。
ところが、リフトの係員の引き継ぎのミスで、彼らが降車場
に着く前にリフトは停止、しかもそこは谷間に架かる地上を
高く離れた地点だった。こうして取り残された3人は、最初
はすぐに動くだろうとの期待も持って、軽口なども交わして
いたが…
ということで、このシチュエーションからの脱出劇が展開さ
れることになるが、実は映画の中で主人公たちが採る行動が
余りに軽率で、例えば飛び降りるにしたって、まずは衣服を
繋いでロープを作るとか方法はいろいろあるはずのものだ。
でもそんなことはパニクっているから、見境が無くなってい
るという解釈なのかな。
それに本作のシチュエーションでは、主人公たちはリフトに
座っているから行動が制限されて、アクションがほとんど成
立しない。そこで映画は会話劇に仕立てているのだが。これ
がまた緊張感がなくて、正直には「もっと危機感を持て」と
苛々してしまった。
他にも、リフトの座席に刺した赤旗は何のためだったのかと
か、雪山に対する認識の甘さ(素手で金属部分に触ったらそ
の場で貼り付いてしまうはず)など、疑問に感じるところは
いろいろあった。
とはいえ現実はこんなものなのかな? 『ブラック・ウォー
ター』は一応実話に基づいているからそうとしか言いようが
なかったのだが…。それに、観客を苛々させるのも映画のテ
クニックとは言えそうだ。

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07月11日(日)
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