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On the Production
by 井口健二
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■第22回東京国際映画祭・コンペティション以外(3)+まとめ
撮影が現地ロケで行われたとも思えないから、製作自体はイ
ランで行われたのかもしれないが、いろいろ微妙な感じだ。
因にイラク・クルディスタン自治府は、現イラク政府が憲法
上で認めているものではあるようだが…

『牛は語らない/ボーダー』(natural TIFF部門)
実はこの作品に関しては、直前の作品と上映時間が重なって
いて、観るべきかどうか迷ったのだが、映画祭の広報から強
く勧められたので不完全な鑑賞になることを承知で観ること
にしたものだ。
このため鑑賞は巻頭の12分が欠けているが、その部分は映画
祭のパンフレットで補っている。
その物語は、ソ連崩壊後に起きたアルメニアとアゼルバイジ
ャンの紛争が終結し掛けた頃を背景にしたもの。その国境の
近くで1頭の牛が瀕死の状態で見つかる。そしてその牛は無
理矢理とある牧場につれてこられるが…ここまでがパンフレ
ットから得た情報だ。
その牛は、連れてこられた牧場で元気は取り戻すが、犬には
吠えられたり、人間たちも辛く当ってくる。そして牛はいつ
も鉄条網で仕切られた国境線を眺めている。その先に観てい
るものは一体何なのだろうか。
ソ連崩壊前は、国境線もなく自由に行き来できた場所が、今
は鉄条網によって仕切られている。しかしそんな人間の事情
は牛には判らない。そんな不条理な物語が、牛の目を通して
描かれているようだ。
最初の状況説明がどのように行われたかは判らないが、映画
の本編では台詞は一切無し。途中で歌声や叫び声などは聞こ
えるが、字幕が付くような台詞は全て排除されている。それ
は牛が物語の主人公なのだから当然ではあるが、それでも物
語が判る(しかも途中から観ていていても…)のだから、そ
れは見事なものだ。
国境線を見つめる憂いに満ちた感じの牛の表情が何とも言え
ない作品だった。直前の作品も素晴らしかったので本作の巻
頭が欠けたことは仕方がないが、何とかして最初からちゃん
とした形で観直したいものだ。

『クリエイション/ダーウィンの幻想』(natural TIFF部門)
このサイトの製作ニュースでは、昨年9月15日付第167回で
取り上げている『種の起源』の著者チャールズ・ダーウィン
とその妻エマを描いた作品。ただし、この製作ニュースは重
大なネタバレを書いていることが判明したので、これから読
むのは控えて欲しいものだ。
物語は、ダーウィンがビーグル号での世界を巡る旅から帰っ
てきてから、『種の起源』を発表するまでの期間を描いてい
る。その時すでに『種の起源』の草稿は発表されており、地
上の生物は神が作ったとする教会に対抗する論調は進歩的な
人々の関心を呼んでいた。
このため本の完成には大きな期待が寄せられていたが、実は
彼の妻エマは敬虔なキリスト教の信者であり、教会の神父と
も付き合いの深い家族に対して、それを否定するような本の
執筆には躊躇いもあった。そして、彼には家族の死という重
圧も掛かっていた。
そんなことから健康も優れないダーウィンは、水治療といっ
たちょっと怪しげな療法にも手を出すようになり、それもま
た彼の身体を蝕んでいく。そんな中で、ダーウィンが『種の
起源』を書き上げるまでが描かれる。
なお物語の創作には、ダーウィンの末裔で“Annie's Box”
と題されたダーウィンの伝記なども発表しているランダル・
ケイネスが参加しているものだ。
監督は、2003年『ザ・コア』や1993年『ジャック・サマース
ビー』などのジョン・アミエル。主演は、実生活でも夫婦で
あるポール・ベタニーとジェニファー・コネリー。実際の夫
婦が演じることの安心感のようなものも感じられた。
ただし、この2人はジェニファーがオスカーを受賞した『ビ
ューティフル・マインド』での共演が切っ掛けで結婚したと
思われるが、本作の題材にはその作品に似通ったところもあ
り、それを思い出してしまうのは辛いところだ。
なお本作は、日本での配給がまだ決まっていないようで、そ
のような作品が観られるのも映画祭の魅力というところだ。

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10月26日(月)
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