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On the Production
by 井口健二
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■第22回東京国際映画祭・コンペティション部門(1)
ていたら、かなり混乱してしまった。さらに描かれる事件は
1つだけでなく、その他の経緯も絡むので、何も知らずに観
ていると相当にややこしいものだ。
しかし映画を観ている間は、雪原に建つ一軒家などの風景が
鮮烈で、思わず引き込まれてしまう力強さは感じられた。そ
れに捜査員たちが強い酒を飲みまくり、それで混乱して行く
様などは恐らく風刺としても強烈に描かれているものだ。
さらに旧体制下での犯罪が現体制下でも隠蔽されて行く過程
などは、実際に体制は変っても人間は変らない…そんな悲劇
が描かれているのだろう。こればかりは当事者でないと理解
できないのかも知れないが、そこへの憤りは感じられる作品
だった。
それにしても、捜査員の1人が妊婦というのはコーエン兄弟
監督『ファーゴ』へのオマージュなのかな。描かれる物語は
どちらも雪の中での陰惨な事件の話だし、映画を観ながらふ
とそんなことも考えてしまった。
体制を守るためには真実などどうでも良い。民主主義の世界
では起こらない話だとは思いながらも、もしかしたらと考え
てもしまう作品だった。
『ストーリーズ』
2002年から数多くの短編映画を発表し、受賞歴の豊富という
スペインのマリオ・イグレシアス監督による長編作品。因に
監督は2006年にも「長編」映画を発表しているが、その作品
は10の短編からなるものだそうだ。そして本作も全体を構成
する物語の中に複数の短編が挿入された特殊な構成となって
いる。
そのメインとなる物語は、物書きを志す主婦を主人公とした
もの。彼女は折々心に留まった出来事から小説を執筆してい
るが、最近夜中に目が覚めて恐怖に襲われ、そのまま眠れな
くなる症状が続いている。
そこで彼女は心理カウンセラーを訪ね、その原因を突き止め
ようとするのだが…その治療に従って、彼女が書いた小説に
基づく短編作品が挿入されて行く。その短編は、バーテンダ
ーの話や、歌手や、結婚式など最初は脈絡のないものだが。
なお短編のシーンはモノクロで撮影され、カラーで撮影され
た現実シーンと対比されているが、そのカラーのシーンの中
にも、ちょっと非現実的な物語が起きたりして行く。そして
後半では心理治療と通じるようなモノクロの作品も登場して
くるものだ。
それは、ファンタスティックというほどではないかも知れな
いが、何か心に感じる作品でもあり、またスペイン内乱時の
銃殺隊の話など、あまり知らなかった歴史の話なども登場す
る。そしてそのほとんどが人の死に関わるものでもある。
物語全体を概観しようとするとかなり複雑だが、それぞれの
シーンが心に残るものでもあるし、作品としては深い情感を
得られるものでもあった。また、トラウマ治療の方法として
EMDRという手法が紹介され、それにも興味を引かれた。
『ボリビア南方の地区にて』
ボリビアの首都ラパスは、他の多くの大都市とは異なり、南
部の低地帯に富裕層の住居が集まっているのだそうだ。そん
な地区に建つ邸宅での物語。その邸宅には、女主人と3人の
子供と、先住民族の使用人たちが暮らしていた。
その長男は母親に溺愛され、ガールフレンドを連れ込んでも
何とも言われない。その一方で年頃の長女は母親に反抗的で
言い争いが絶えないが、それも愛情の発露のようにも感じら
れる。そしてまだ幼い次男は、使用人の男性にいろいろな教
えを請うている。
そんな一家だったが、母親の貯えが底を尽き始め、暮らし振
りは厳しくなってくる。それでも子供たちを学校には通うわ
せようと努力を重ねる母親だったが…
長く白人が支配してきた国で、徐々に先住民たちが力を付け
てくる。それは暴力的な反抗ではなく、静かに先住民への権
力の移譲が進んで行く世界。そんな平和裏に進む歴史ではあ
っても、そこに暮らす人々には悲しみも生じる。そんなボリ
ビアの現在が描き出された作品のようだ。
ただし物語の全体は、邸宅での使用人と主人と関係を描いた
ものにもなっており、そこには、アンソニー・ホプキンスの
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10月16日(金)
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