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On the Production
by 井口健二
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■エスター、イートリップ、黄金花、眠狂四郎・勝負、パブリック・エネミーズ+他
自身の思い出と同じで、その辺にも共鳴してしまったのかも
知れない。
その一方で、沖縄に居住して自給自足の生活を行っている主
婦や、歌手UAの暮しぶり、さらに初めて茶室に入った俳優
浅野忠信のとまどいや、池上本門寺住職の食に関する含蓄の
ある発言などが綴られて行く。
築地での巨大なマグロを解体して行く様子や、沖縄で野生か
と思うような草を収穫して丁寧に食材にして行く様子など、
知識としては持っていても現実に観るのは珍しいシーンもあ
るし、途中に挿入される調理の様子やアニメーションにも魅
かれるものがあった。
日本の食に関して高邁な意見を述べるのではなく、茶室にお
ける浅野のようなごく初心者の立場に立って食を考える。そ
こには政治や社会といった面倒なものもなくて、ただ純粋に
食だけが追求されている。
上記のドイツ作品の時は、何かが引っ掛かってサイトでは紹
介しなかったのだと思うが、本作に関しては諸手を挙げて推
薦できる。別段難しいことを言っている作品でもないし、そ
れでもハッと気付かされるところも沢山あった。
かと言って、それで自分の意見や思想が変えられるようなも
のでもなく、心安らかに観ていられる。そんな見事な作品だ
った。

『黄金花』
2007年6月に『馬頭琴夜想曲』と、2008年7月に『夢のまに
まに』を紹介している日本映画美術の重鎮、今年91歳になる
木村威夫の原案・脚本・監督による長編第2作。
今回も試写会では木村監督による挨拶があって、それによる
と本当は時代劇を企画していたが実現せず、代りに見つけた
昔のメモから脚本を2週間で書き上げたとのこと。従って本
人は即席で作ったような話をしていたが、なかなかしっかり
した作品になっている。
物語は老人ホームを舞台に、原田芳雄の演じる80歳を迎えた
植物学者が幻の「黄金花」を目にして…というもの。その花
は、遊びも酒も女も、俗世間の全てを顧みずに研究に没頭し
てきた老学者に、封印してきた青春の思い出を蘇らせる。
そして映画は、日本の敗戦直後の時代へと遡り、木村美術特
有の夢とも現実ともつかない世界へと主人公や観客を誘って
行く。
正直に言って、以前に観た木村監督の作品では映像的な部分
が先行して物語が後付のような感じだったが、本作はちゃん
とした物語があって、その部分では理解も容易だし、評価も
し易いものになっている。
その評価としては、まず91歳にしてこの想像力というか、映
像を造り出すエネルギーには感服せざるを得ないだろう。階
段のある試写室まで挨拶に来られたことにも驚いたが、映画
の中でも山野の中での撮影を敢行しており、それをやり遂げ
る活力は凄いものだ。
それに物語的にも、「命短し恋せよ乙女」ではないけれど、
青春を謳歌せよと奨励しているかのような展開で、それも若
者に対するメッセージのように受け取れる。なお本作の製作
には、京都造形芸術大映画科の学生が多数協力しているよう
だ。
共演は、松坂慶子、川津祐介、松原智恵子、三條美紀、野呂
圭介、絵沢萌子。他に能の河村博重、麿赤兒、長門裕之らが
出演している。正にオールドエイジの共演だ。さらに歌手の
あがた森魚、松尾貴史らも顔を出している。
また本作では、京都造形芸術大映画科の学科長を務める林海
象映画監督が協力プロデューサーとして参加、脚本にも協力
している他、同科の講師陣である『西部警察』などの小川真
司が撮影、『グーグーだって猫である』などの浦田和治が録
音を担当している。
つまり京都造形芸術大映画科挙げての映画製作だが、林監督
はこのチームを「北白川派」と称して映像集団として育成す
る構想だそうだ。一方、木村監督は本作の興行を花座と称し
て全国展開する計画とのことだ。

『眠狂四郎 勝負』
前々回から紹介している「大雷蔵祭」で上映される内からの
1本。1963年から69年に12作品が製作された人気シリーズの
第2作(1964年製作)。同シリーズでは先に『殺法帖』(田
中徳三監督)があるが、三隅研次監督による本作でその方向

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09月13日(日)
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