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On the Production
by 井口健二
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■あなたは私の婿になる、引き出しの中のラブレター、大洗にも星はふるなり、へんりっく、パイレーツロック、ちゃんと伝える、行旅死亡人
手紙だった。
こんな物語を中心軸に据えて、九州から出稼ぎに来ているタ
クシー運転手や、シングルマザーを決意している妊産婦、親
の経営する医院に勤務し将来の院長の椅子も用意されて親離
れできない青年医師などの物語が交錯して行く。
出演は常盤貴子、林遣都、中島知子、岩尾望、竹財輝之助、
本上まなみ。他に水沢奈子、萩原聖人、吹越満、六平直政、
西郷輝彦、豊原功補、八千草薫、仲代達矢、伊東四朗、片岡
鶴太郎らが脇を固めている。
アンサンブル劇の面白さは、画面の端と端でそれぞれの登場
人物がすれ違うなどの仕掛けと、最後にそれらが意外な繋が
りを見せて行く過程が醍醐味となるが、本作の繋がりには、
ちょっとニヤリとしたところも在ったかな…。それほどの意
外性はなかったけれど、何となくほっとする優しさが心地よ
くも感じられた。
脚本の藤井清美、鈴木友海と、監督の三城真一は共にテレビ
から来た人のようだが、物語にはラジオという媒体の特性が
上手く活かされていた。そして映画としても面白く描けてい
た。

『大洗にも星はふるなり』
「江の島」といっても、茨城県大洗の海岸に建てられた夏限
定の海の家。そこで夏期のアルバイトをした仲間たち。本来
なら8月31日で閉鎖・撤去されたはずのその海の家に、クリ
スマス・イヴのその晩、彼らは戻ってきた。
集まったのは、4人の若者と中年のマスター。彼らは、それ
ぞれがバイト仲間のマドンナだった女性からの手紙で呼び出
されたのだ。しかし彼らを呼び出した彼女の目的は…?その
推理を巡って、若者たちの妄想が暴走し始める。
さらにそこに、違法に残されている海の家の撤去を求める弁
護士もやって来て、騒ぎに巻き込まれた弁護士は彼らの発言
を冷静に検証し始める。そして、若者に特有の勝手な思い込
みと現実とのギャップが次々に明らかにされて行く。
映画は、一部には海岸のシーンと、また回想シーンでの各地
のロケーションも登場はするが、ほとんどは海の家の中での
芝居が1幕物の舞台劇のように展開される。
脚本と監督は福田雄一。放送作家として数々の番組を手掛け
ているそうだが、その一方で劇団の座長も務めているとのこ
とで、なるほどこの構成も理解できるところだ。
とは言え、過去に放送作家と呼ばれる連中の映画作品では何
度も痛い目に遭っているところだが、福田監督は、脚本家と
して2006年『逆境ナイン』と2008年『ぼくたちと駐在さんの
700日戦争』も手掛けているとのことで、映画の作り方も
よく判っていたようだ。
出演は、山田孝之、山本裕典、ムロツヨシ、小柳友、白石隼
也。マスター役に佐藤二朗、弁護士役に安田顕。それぞれ個
性豊かな連中が集まっている。そしてマドンナ役は…8月の
公式発表まで秘密だそうだ。
まあ、若者の戯言のドラマと言ってしまえばそれまでだが、
弁護士が真実を暴いて行く過程はそれなりに納得できるもの
になっている。それに、多少大袈裟な演技は舞台劇の雰囲気
と思えば了解もできて、観ている間はさほどの違和感もなか
った。
僕自身が生まれも育ちも湘南の人間としては、茨城県大洗と
いう土地柄はあまり良く判らないが、笑いの根底にある劣等
感のようなものは土地柄に関係なく理解できるもので、全体
的には面白く観られた作品だった。

『へんりっく』
1983年に亡くなった寺山修司の許で俳優や舞台の裏方として
寺山の表現活動を支えてきた森崎偏陸という男性に焦点を当
てたドキュメンタリー。
1949年兵庫県淡路島生まれ。高校生の時に家出をして上京、
寺山主宰の天井桟敷に参加、あるときは実験映画の出演者、
またあるときは演出助手や舞台監督として活動。そして寺山
の死後は母堂に請われて養子となり、戸籍上は寺山修司の弟
となっている。
1974年製作の実験映画『ローラ』では、スクリーン上の女性
が観客席の男性を挑発し、憤然とした男性客がスクリーンに
飛び込むものの、女性たちに全裸にされてスクリーンから追
い出される。この作品で偏陸はスクリーン上の男性を演じて

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08月02日(日)
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