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On the Production
by 井口健二
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■アドレナリン2、TAJOMARU、サマーウォーズ、ワイルド・スピード4、千年の祈り、悪夢のエレベーター、BLACK WATER、ココ avant シャネル
川森一と、本作のプロデューサー山本又一朗の別名である水
島力也。監督は、1998年『SFサムライ・フィクション』な
どの中野裕之。
試写後に行われた記者会見で山本は「小栗旬の舞台を観て、
この役者で映画と作りたいと思った」と、本作の映画製作の
動機を語っていたが、その通りの正しく舞台で芝居を観てい
るような感じの作品が展開される。
それは全編を2台のカメラで、常に台詞を言う側と聞く側の
役者を撮影するという撮影方式にも拠るかも知れないが、そ
のまま舞台で上演しているような演出スタイルで貫かれ、そ
れは良い意味で最近の映画とは少し違う感触になっている。
そして描かれるのは『羅生門』の世界。ここでも山本は「黒
澤作品に太刀打ちできるはずがない」としながらも、そのポ
イントをド真中に据えて、見事にそれを拡張させてみせた作
品になっている。
特に当時の政治情勢を模した物語は、史実ではないものの、
それなりの時代背景を作り上げる一方で、そこに描かれる愛
憎劇は現代にも通じる面白い作品に仕上げられていた。
最近流行りのナチュラルではない大芝居が観られる作品。そ
れもまた映画=演劇の面白さとも感じられた。

『サマーウォーズ』
2006年公開の『時をかける少女』が高い評価を受けた監督・
細田守、脚本・奥寺佐渡子、キャラクターデザイン・貞本義
行のトリオによる新作。
夏休みを迎えた高校2年の男子が主人公のお話。彼は憧れの
先輩女子にアルバイトを頼まれて、彼女と共に信州上田の実
家を訪れる。ところがその夜、彼の携帯に届いた数字の暗号
を解いたことから、大変な事件に巻き込まれることになる。
物語の背景では、OZと称するネット上のヴァーチャル世界
が運用されており、それはいつの間にか世界を動かすコミュ
ニケーションの根幹となっていた。そしてその日、彼が解い
た暗号が原因でそのセキュリティーが破られる。
それはやがて、全世界を巻き込む未曾有の災厄をもたらして
行く。この事態に、実は謎の実力を持つ集団だった上田の一
族が立ち上がり、ヴァーチャル/リアルの2つの世界に跨が
った戦いが始まるが…
この種のヴァーチャルウォーズものは、『マトリックス』の
3部作を筆頭に数々作られているが、本作ではその3部作の
結末で残った溜飲が一気に下がったように感じた。それはヴ
ァーチャルを見てくれ優先で描くのではなく、物語としてし
っかりと描こうとしているもので、その結末にはそれなりの
満足が得られたものだ。
もちろん、まだ甘いところや説明不足が感じられる部分もな
いではないが、ヴァーチャル世界での戦いと、それがリアル
世界にもたらす影響がそれなりに納得できるようにうまく描
かれていた。
特に、物語の全体がリアル社会には知らされずに進行してい
るという設定が見事で、それでも気づいている人々もいると
いう展開には、SF的なセンスオブワンダーと、ある種のカ
タルシスも感じさせてくれた。
作家たちの前作『時かけ』に関しては公開時に観る機会がな
く、今回参考としてヴィデオで鑑賞したが、青春ドラマとし
ては良いかも知れないが、正直に言ってあまりセンスオブワ
ンダーを感じなかった。
この前作は、確かにオリジナルの設定に乗った作品ではある
が、その設定からの広がりやSF的な感動に乏しいものだっ
たのだ。その不満が本作では解消されていた。しかも青春ド
ラマの部分もちゃんと残されていたのにも感心した。
実は、6月中に上映時間1時間50分の未完成ラッシュフィル
ムでの上映が行われその時にも鑑賞したが、当時はネットで
の紹介は控えて欲しいとの要請があった。そこで今回は、改
めて上映時間1時間54分の完成版を見直しての紹介をしてい
るものだ。
お陰で内容的な理解度も上がったと思うのだが、映像的には
それなりに細部にも拘わって描かれていたようだ。それにラ
ッシュ時とは少し編集も変わって、テンポなどが改良されて
いるようにも観えた。
2006年の『時かけ』を楽しめた人には充分に楽しめると思う

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07月12日(日)
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