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On the Production
by 井口健二
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■童貞放浪記、8月のシンフォニー、のんちゃんのり弁、花と兵隊、僕らはあの空の下で、キャデラック・レコード、30デイズ・ナイト
従って全てが万々歳という感じの物語で、路上ライヴの妨害
などのエピソードはあるが、悪い人も殆ど出てこないし、正
直には世の中こんなに甘くはないがなあ…と思いながらも、
これが実話なのだから、世の中、案外捨てたものでもないか
なとも思えてきた。
そんな物語だが、映画の中にはチャンと泣かせる場面も設け
られているし、それは川嶋のファンでなくても普通に感動す
ることができるものになっている。それに加えて川嶋本人の
歌声が聴けるのだから、これはファンには堪らない作品と言
えそうだ。
ただし、アニメーションは基本的に実写をトレースするロト
スコーピングの技法で描かれているが、背景は実写を画像処
理しただけらしく、そこに写っているものの処理のいい加減
さには頭を抱えた。
それは、例えば2002年の時代背景のはずなのに2008年公開の
『L change the World』のビルボードが観えたのは見間違い
かも知れないので追求しないが、渋谷駅の路線図に2008年開
業の副都心線が描かれているのには呆れてしまった。
確かに副都心線の路線図はかなり前から書かれてはいたが、
いくら何でも8年も前からはないだろう。写り込んでいる店
の看板をいろいろ書き替える労力を費やすなら、もう少しは
こういう時代考証にも気を使って欲しいものだ。『ラスト・
ブラッド』のように本物を走らせるのではないのだから。
『のんちゃんのり弁』
漫画雑誌「モーニング」で、1995−98年に連載された入江喜
和原作コミックスの映画化。
生活力のない夫に愛想を尽かして下町の実家に子連れで帰っ
てきた主人公が、周囲の迷惑も顧みず、自らの目標に向かっ
て突き進んで行く姿を痛快に描く。
主人公は、作家志望という男の夢に憧れて結婚したが、その
実体は親の脛かじりで住居や生活に不自由はないものの将来
に全く希望が持てない。そんな夫に愛想を尽かし1人娘を連
れて下町の実家に帰ってきたが、年金暮らしの母親に頼るこ
とはできない。
しかも主人公自身にも何の特技も技能もなく、その上、慰謝
料も貰いたくない主人公は、何とかお金を稼ぐ方法を考える
が…。そこには別居した夫がストーカーのごとく現れるし、
1人娘はその夫を今でも慕っているようだ。
ところが、幼稚園に通園する娘のために作った「のり弁」が
評判になり、料理には少し自信のあった主人公は弁当屋を開
くことを夢見始める。そして、近所で1人で切り盛りしてい
る居酒屋の店主などを巻き込んで、夢はどんどん膨らむが…
基本は下町人情ものという感じだが、結構厳しい現実も捉え
ていて、特に夢見がちの主人公に対して居酒屋の店主が現実
の厳しさを説いて行く下りには、はっとさせられるものがあ
った。
その一方で、主人公と地元の幼馴染みの男性が繰り広げるぎ
こちない恋愛騒動にも、如何にも有りそうなリアル感があっ
て、その辺が最近のブームかも知れない下町ものの中では一
つ際立っている感じもする作品だった。
主演は、『死神の精度』のヒロイン役が印象に残る小西真奈
美。共演には、岡田義徳、岸部一徳、村上淳、倍賞美津子。
そしてタイトルロールの子役は、オーディションで箸を使っ
た食べっぷりが認められたという佐々木りおが演じている。
脚本監督は、2000年『独立少年合唱団』でベルリン映画祭新
人監督賞受賞、2005年『いつか読書する日』でモントリオー
ル映画祭審査員特別賞受賞の緒方明。まだ3作しか撮ってい
ない監督だが、受賞歴は伊達ではないようだ。
なお劇中に登場する「のり弁」を『かもめ食堂』『めがね』
などのフードスタイリスト飯島奈美が手掛けていて、CGI
も絡めたその解説は実に美味しそうだった。また、劇中登場
の工事現場はスカイツリーの建設地だそうだ。
『花と兵隊』
インパール作戦に参加。敗戦後の日本軍解体の時に離隊して
そのまま現地に留まった元日本兵の現在を取材したドキュメ
ンタリー。
その人々の中には、兵役で学んだ知識を活用して戦後に財を
なした人や、戦後に放置された日本兵の遺骨を収集して個人
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06月07日(日)
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