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On the Production
by 井口健二
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■天使と悪魔、九月に降る風、MW、ダニエル/悪魔の赤ちゃん、刺青/背負う女/匂ひ月のごとく
れていた頃のこと。映画に登場するのは新学期を迎えたばか
りの高校生たち。彼らは1年生から3年生まで学年を跨いだ
グループだったが、何かと問題を起こしては教官室に呼び出
されていた。
そんな悪餓鬼グループの日常が、他の生徒たちや社会との交
流、そして台湾プロ野球界の動きも絡めて描かれて行く。そ
れは、野球の応援に興じたり、深夜の屋内プールに忍び込ん
で騒いだりといった他愛のないものだが、徐々にいろいろな
出来事が生じて行く。
物語の全体の流れは、ジョージ・ルーカス監督の『アメリカ
ン・グラフィティ』を髣髴とさせる。そこにはリーダーとな
る奴や道化や、学業ではちょっと優秀な奴もいて、悪ふざけ
や男女の関係や、そこから始まる深刻な事態などが描かれて
行く。
実は、僕は映画祭の時にも1度本作を観ているのだが、その
時の印象はあまり芳しくなかった。その理由は明確には思い
出せないが、多分登場する高校生たちの行動に違和感があっ
たのだろう。しかし今回見直していて、何となくそれは了解
することが出来てきた。
結局、彼らの行動の多くは多分自分でもその場にいたら同じ
間違いをしてしまうようなものであり、その結果には大きな
悔恨と後ろめたさが残るだろう。だが人間はそれを乗り越え
て生きて行かなければならない。そんな人間の生きて行く姿
が、高校生という青春の一時期を中心に描かれる。
脚本と監督は、助監督出身で本作が長編デビュー作のトム・
リン(林書字)。因に監督は、正に本作で描かれた時期に、
映画の舞台とされている地方の高校生だったとのことで、作
品は監督自身の物語でもあるようだ。
なお映画には、八百長事件で球界を逐われたプロ野球選手・
廖敏雄が実名で登場。また、主人公たちの会話の中には飯島
愛という名前も出てきた。いろいろな意味での一つの時代が
描かれた作品とも言えそうだ。
『MW』
漫画家、故手塚治虫の生誕80周年を記念して製作された実写
映画。原作は、手塚作品の中では問題作とされているものだ
そうで、映画の宣伝コピーには「手塚治虫最大のタブー」と
いうような言葉も見られる。
物語は16年前のとある事件から始まる。それは孤島の住民の
殆どが虐殺されたというものだったが、何故か事件は闇に葬
られる。
それから16年後、東南アジアのタイで日本企業の現地駐在員
の娘が誘拐される事件が発生する。その誘拐事件を追うのは
タイ警察への協力のため警視庁から派遣された刑事。刑事は
直感的に犯人を発見し、カーチェスなどの末に追い詰めて行
くが…
この事件は単なる営利誘拐事件として処理され、警察の発表
に基づく事件の報道もそれに終始する。ところが1人の女性
記者がそこに疑問を抱く。そして彼女の調査は、事件を16年
前に島民が全員離島したとされる孤島の問題へと結びつけて
行く。
一方、誘拐事件の首謀者は玉木宏扮するエリートビジネスマ
ンだったが、彼が事件を引き起こすのには、16年前の事件に
起因する理由があった。だが、彼の目前には国家権力という
分厚い壁が立ちはだかっていた。
この他、犯人に振り回される教会の牧師や、次期首相候補の
与党政治家とその秘書など、いろいろな立場の人間たちの物
語が事件を巡って交錯し、ドラマを作り上げて行く。
国家による犯罪。それは民衆の声を圧殺する一方で、それに
よって甘い汁を吸う者も生み出す。そんな矛盾に犯罪行為を
以て挑んで行く主人公。その止むに止まれぬ心情は現代人の
多くに理解されるものだろう。
しかし、主人公が行うのはあくまでも犯罪行為。それを容認
するかのようにも見えるこの物語には映画の製作者も相当に
苦慮したようだ。それは実際に映画の最後に掲示される1枚
のテロップにも現れている。
必殺シリーズやそれに類する作品では見られないこのテロッ
プが、この作品の重大さを物語っているようでもある。そし
てそれは、それほどにこの映画の製作者たちが真剣であった
ということの証でもあるのだろう。
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05月10日(日)
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