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On the Production
by 井口健二
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■HACHI、美代子阿佐ヶ谷気分、佐賀のがばいばあちゃん、蟹工船、湖のほとりで+製作ニュース
原作者の安部は1950年生まれとのことで、僕とほぼ同年代の
人のようだが、僕もこの時代から業界の隅っこにいた人間と
しては、自分の周囲にもこの主人公と同じような人たちがい
たことは記憶にある。そんな記憶が甦ってくる作品だ。
一方、本作を監督した坪田義史は1975年生まれのようだが、
飲み屋の風景などはこれが定番の撮り方だとしても、1970年
頃の雰囲気をよく捉えているように観えた。自分たちもあん
な風に飲んでいたことは確かだ。その辺ではちょっと身に詰
まされる作品でもあった。
出演は、漫画家役に水橋研二、美代子役に舞台女優の町田マ
リー。他に本多章一、松浦祐也、あんじ。また編集者役で佐
野史郎。さらに漫画家の林静一ら「ガロ」ゆかりの人々多数
がゲスト出演している。
映画の後半では、一時行方不明だった安部のその後が描かれ
たり、音楽には安部の息子たちが結成しているインディーズ
バンドがフィーチャーされるなど、映画の全体が安部への賛
歌のようにも描かれていた。
観ていて自分自身の青春時代が甦ってくるような作品でもあ
り、いろいろな意味で興味深い作品であった。

『島田洋七の佐賀のがばいばあちゃん』
漫才師の島田洋七が、幼少時を佐賀県の極貧の祖母の家で暮
らした思い出を綴ったベストセラー本から、自らの企画・脚
本・監督で映画化した作品。
同じ原作からは2006年に吉行和子主演による映画化、2007年
に泉ピン子主演によるテレビドラマ化、その他に漫画やゲー
ム、舞台化などもあるようだが、今回は原作者本人の監督で
再度の映画化が行われたものだ。そのため題名にも監督名が
追加されている。
内容は、広島県から家庭の事情で佐賀の祖母の家で暮らすこ
とになった少年の成長に併せて、極貧の中での祖母の生活の
知恵や当意即妙の言行録が綴られているもので、特にその言
行録には現代にも通じるものが数多く含まれている。それは
正に今の時代にも活かせるものと言えるかもしれない。
その一方で、今では失われてしまった人間と自然との共生の
ようなものも描かれている。実際映画の中では、川で冷やし
たトマトを食べるシーンなどもあるが、僕自身の子供時代を
考えても、滋賀県にあった両親の実家を訪ねたときには、ト
マトやスイカなどが川や井戸で冷やされていて、それこそ天
然の冷蔵庫だった。
そんなことが当り前だった時代もそれほど昔のことではない
のだが、それを記憶に留めているのも僕や原作者の世代まで
なのかもしれない。この映画を観ながら何か大きなものを失
ったような気持ちにもさせられた。
出演は、ばあちゃん役に香山美子、母親役に高島礼子、そし
て徳永昭広(洋七)少年の役を瀬上祐輝、原田祥、森田温斗
が演じている。また島田紳介、東国原宮崎県知事や、監督本
人らもゲスト出演している。
因に、昭広少年は野球がかなり得意だったようで、映画の後
半ではそれに纏わる物語も展開される。それはちょっとした
感動の展開ともなるものだが、僕自身は、この展開をもう少
し盛り上げても良かったのではないかと感じた。
多分、監督には自慢話になってしまうことに気兼ねがあった
のかもしれないが、これでは少し中途半端な感じだ。その努
力する理由などももう少し丁寧に描いて欲しかったもので、
この辺が自分で映画化していることの難しさかなあ…とも感
じられた。

『蟹工船』
昨年来突然ブームになっているという小林多喜二の80年前の
原作を、『弾丸ランナー』などのSABU監督で映画化した
作品。
僕はSABU監督の作品はあまり観ていなくて、過去に真面
に鑑賞したのは2003年東京国際映画祭で特別招待上映された
『ハードラックヒーロー』のみ。従って監督の作品の印象は
明確ではないが、何となく現代風のアクションのイメージを
持っていた。
その監督が、1929年に発表された日本のプロレタリア文学の
代表作とされる小説を映画化したことには、正直に言って多
少の違和感も感じながら完成披露試写を観に行ったものだ。

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04月12日(日)
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