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On the Production
by 井口健二
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■未来予想図、ロンリーハート、僕のピアノコンチェルト、夜顔、僕がいない場所、めがね、インベージョン、Mayu
せられたのも珍しいことのようだが、映画ではその最初から
最後までの克明に描いている。しかも、捜査の様子も丁寧に
描かれていて、そこには監督の思い入れも感じられるところ
だ。
なお試写はソニーの新試写室で観せてもらったが、フィルム
送りの揺れのない画面は非常に見易くて気持ちが良かった。
ただ、打ち込み字幕の左右に滲みのようなものが見られて、
その原因は判らないがちょっと気になった。

『僕のピアノコンチェルト』“Vitus”
またまた少年ピアニストのお話。
主演のテオ・ゲオルギューは1992年生まれ、2004年サンマリ
ノ国際ピアノコンクールなどで優勝歴を持っており、実際、
最後のコンサートシーンの撮影は、製作費削減の為に有料で
入場者を募って行われたが、入場券は即時完売したという程
の人気者ということだ。
また、彼の演奏シーンはこの他にも繰り返し登場し、プレス
資料の解説によれば、それぞれ演奏される楽曲にも意味が込
められているようだ。そして物語では、そんな音楽に天分を
持つ少年が、その天分ゆえに、周囲との軋轢で苦しんで行く
姿が描かれる。
とまあ、普通に書けばこんな内容の映画だが、『山の焚火』
で知られるフレディ・M・ムーラー監督の作品は、そう一筋
縄で行くものではなかった。そして、その物語は子供の姿を
見事に描いて、爽快な結末へと繋げて行く。
ムーラー監督の以前の作品は見ていないが、1940年生まれの
ベテランの作品歴によると、H・R・ギーガーのドキュメン
タリーを手掛けたり、1969年に“2069”という作品が在った
り、さらに1998年の『最後通告』は幻想的なミステリーだっ
たということだ。
そんな監督が、子供の夢を描きたいとして作り上げたこの作
品は、サン=テグジュペリの『星の王子様』に准えた少年の
姿を生き生きと描いている。それにしてもこの展開は、正に
子供だったことを忘れていない大人の作品と言えそうだ。
因に、この映画の主人公について監督は、『ブリキの太鼓』
のオスカルと、『デューン/砂の惑星』のアリアを引き合い
に出している。
共演は、『ヒトラー〜最後の12日間〜』でドイツ系俳優と
して初めてヒトラーを演じたブルーノ・ガンツが、少年に理
解のある祖父の役を楽しげに演じている。また、主人公の幼
少時代を演じたファブリツィオ・ボルサニも、ピアノは自分
で演奏しているそうだ。
演奏される楽曲は、リストの『ハンガリー狂詩曲』『ラ・カ
ンパネラ(鐘)』、ラヴェル『道化師の朝の歌』、モーツア
ルト『ロンド イ短調』『レクイエム』、チェルニー『エチ
ュード』、スカルラッティ『ソナタ』、バッハ『ゴルトベル
グ変奏曲』、シューマンの『ピアノ協奏曲イ短調』などで、
その内の多くはゲオルギュー自身が演奏している。
これらの音楽も存分に楽しめるし、ちょっと捻った物語も期
待以上に楽しめた。

『夜顔』“Belle Toujours”
1976年のルイス・ブニュエル監督作品『昼顔』(Belle de
Jour)の後日談。オリジナルに主演したカトリーヌ・ドヌー
ヴは出演しなかったが、アンリ役のミシェル・ピコリは38年
後の自分の役柄に再挑戦している。
監督は、1908年生れ、今年99歳のマノエル・ド・オリヴェイ
ラ。恐らく現役世界最長老の映画監督は、1957年に短編を映
画祭初出品し、1990年以降は毎年1作ずつを発表して、来年
100歳で発表する作品もすでに製作中とのことだ。
その監督が、ブニュエルと脚本家のジャン・クロード・カリ
エールへのオマージュとして作り上げた作品で、2006年のヴ
ェネツィア映画祭に出品されて喝采を浴びた。
物語の発端は、パリのコンサートホール。クラシックの演奏
会を楽しんでいたアンリは、かつての友人の妻で今は未亡人
のセヴリーヌの姿を発見、その後を追うが、彼女は彼を避け
るようにタクシーに乗り込んでしまう。
しかし、いろいろな偶然から再び彼女を見かけたアンリは、
彼女が出てきたバーのバーテンダーから彼女の宿泊先を聞き
出す。そしてそのホテルを訪ねたアンリだったが…

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09月10日(月)
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