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On the Production
by 井口健二
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■東京国際映画祭2006「アジア風」+「ニッポン・シネマ・クラシック」
ヒントに小説を書くが、現実の世界もそれに微妙にシンクロ
して行く。
小説家の書いた3つの物語。それらはそれぞれタイトルも付
されてオムニバスのように提示されるが、実はそれぞれ作家
の体験に基づくもので、実体験では連携しているものだ。そ
こにベッドの下に死体があったり、いろいろの出来事が起こ
り始める。その現実と虚構が映画の中でも入り混じり始め…
確かに面白い発想だが、映画としては整理されていなくて、
物語以上に混乱しているように感じられた。禁書を暗記して
いるために人との会話を失った女性の話など、それなりに面
白い話もあるし、もっと虚構と現実にメリハリつけて描いて
くれれば、それなりの作品にもなったのだろうが…

『サイゴン・ラブ・ストーリー』(ヴェトナム)
1988年のサイゴンを舞台に、歌手を目指す女性と、家具工場
で働く若者の交流を描いた作品。若者は工場の経営者の娘と
結婚することになるが…
ヴェトナム初の民間資本によって製作された映画ということ
だ。その物語は、ドイモイの始まった頃を背景にしている。
経済が自由化されて人々にも自由が訪れたとき、町には物資
も溢れているが、貧富の差も大きくなり始めている。そんな
中で歌手を夢見る少女は、一歩一歩階段を昇って行く。主演
の少女役はヴェトナムで現役の人気アイドルだそうで、クラ
ブで歌うシーンなどは良い雰囲気だった。演出は古典的で、
昭和30年代の日本映画を思わせる作品だが、物語の内容も何
となく日本の戦後と呼ばれた時代とも重なる感じで、好き嫌
いはありそうだが、僕は悪い感じではなかった。

『バイ・オブ・ラブ』(タイ)
バンコクの街角に棄てられた犬と、その町の親戚に預けられ
た少女の交流を描く。しかし、飼うことを禁じられた犬はど
こかに連れて行かれ、少女もその後を追って家を出て行くこ
とになる。
動物と子供を使った映画はずるいとしか言いようがないが、
まさにそんな感じの作品だ。でも、物語も後半は意外な展開
となって、かなり楽しめる作品だった。少女役の子役も達者
な演技だし、彼女につきあう年長の少年がまた良い感じだっ
た。監督は、2005年の映画祭で上映された『ミッドナイト・
マイ・ラブ』のプロデューサーということで、その作品も気
に入っていた僕としては嬉しい作品だ。物語は全く違うが、
弱者に優しい、そんな感じが共通している。でも、2年前の
作品はハッピーエンドだったが…ちょっとショックだった。

『エクソダス/魔法の王国』(フィリピン)
フィリピンでは、クリスマス前後は外国映画が上映禁止だそ
うで、その期間向けに作られたVFXファンタシー作品。
大昔に封じられた悪霊が復活し、それを倒すために四代元素
の精霊を探したり、古文書を解読したり、これに主人公の妻
の献身があったりと、いたって有り勝ちなファンタシー・ア
ドヴェンチャーが繰り広げられる。いろいろとVFXも登場
するが、レベルはかなり低く、良く言って日曜朝の戦隊シリ
ーズ程度という感じのもの。それを割り切って観るのも多少
努力が要る感じだった。物語も、かなり行き当たりばったり
で、これはと言うような展開も観られない。でもまあ、香港
のファンタシー映画も、カンフーを抜くと以前はこんなもん
だったし、ここから1歩が踏み出されることを期待したい。
撮影はCineAltaで行われ、最後にロゴが表示されていた。

『多細胞少女』(韓国)
『情事 an affair』や『スキャンダル』のイ・ジェヨン監督
によるファンタスティック・コメディ・ミュージカル。
風紀の乱れ切った高校を舞台に、貧乏神を背負った少女や、
一つ目、それにスイスからの帰国学生などが繰り広げるどた
ばたコメディ。巻頭から、仏経、キリスト教、ヒンズー、イ
スラム、儒教など役立たずと歌い上げるシーンから始まり、
HIVが出たというと、生徒のほぼ全員と教師までもが検査
に走るという、とんでもない学園生活が描かれる。これに切
ない恋物語などが織り込まれるのだが…裏では風紀を正そう

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01月09日(火)
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